相棒 ‐キョウリョク‐ 肆
「まぁ、このままじゃ食費が無くなって生死に関わるからな。面倒だとか文句は言ってらんねぇか」
『って事は?』
「組んでもいいですよ、俺は。ただ、猫又はどうか解んないですけど」
供助が横目で猫又を見ると、すでに弁当を食べ終わって容器の底を舐めていた。行儀が悪いとも思うが、元々猫だと思えば仕方がないか。
まだ一口しか食べていない供助の中華丼を欲しがられないよう、気付かれないよう静かに猫又から遠ざける。
「話は聞いておったぞ。私も払い屋の仕事に手を貸せと言うのだろう?」
『そーなのよ。どう? 働いてみる気なーい?』
「私は今の食うて寝るだけの生活も悪うないのだがのぅ」
『そう言わないでさぁ。いい汗かいて、ご飯をもっと美味しく頂こうよ? それとも、やっぱり同じ妖怪と敵対するのは嫌?』
「その様な事は無い。同類に対して共存共栄の意思を持つ妖怪は多くないからの。己の本能や欲のままに生きる者ばかりだ。払い屋稼業をしておる横田も知っておろう?」
『まーね。それでも人間みたく、物好きな奴も結構いるからねぇ。供助君と一緒に行動すれば多くの妖怪と会う。もしかしたら、どこかしらから共喰いの情報が出てくるかもよ? 期待出来るかどうかは運次第だけど』
「ふ、む……それでも何もしていないよりはマシか。それに、そろそろ供助の視線が痛うなってきたからの。猫の手で良ければ貸そう。私も探し者の情報が欲しいからの」
舐め終えて綺麗になった容器をテーブルに戻し、猫又は真剣に話を進めていく。
……が、舐めた時に付いたのか左頬に生姜焼きのタレが。真面目な顔をしても締まらず間抜けな顔にしか見えない。
『ほんと? いやー良かった、一安心。これで急いで作った書類が無駄になんないで済んだよ』
「書類?」
横田の言葉が気になり、供助は弁当に向けていた箸を止める。
『実はもう、供助君と猫又ちゃんが組む為に協会へ提出する書類を作っててねぇ。あとは俺がサインするだけ』
「……どんだけ組ませたかったんですか」
『そんだけ人手不足なのよ』
「でもいいんですか? 人喰いの囮って事で猫又をこの家に置いてるのに、簡単に外に出して」
『危険もあるだろうけど、こちらから姿を見せないと向こうも行動を起こさないかもしれないしねぇ。それに、家に篭りっぱなしの生活じゃ猫又ちゃん、ストレス溜まるでしょ。ほれ、猫だし』
「ま、猫又がいいって言うんなら別に問題は無ぇけどよ」
「共喰いの情報が皆無だからの、少しでも可能性があるならそれに縋る。それに食費も稼げるなら一石二鳥だの」
ペキン、と。使った割り箸をさらに割り、猫又は言う。
『二人から了承も得たし、サインも書いた。これで書類上の手続きは終了するけど、やんなきゃいけない事が一つ』
「まだなんかあるんすか?」
『猫又ちゃんの実力査定しないとね。じゃなきゃどのレベルの依頼を任せられるか解らんでしょ』
「あぁ、そっか」
『って訳で、一週間後に依頼ついでに猫又ちゃんの実力査定するから。実質、二人が組んでの初仕事だぁね』
「……随分と手際が良過ぎやしませんか?」
『そりゃあ二人が組んでくれる前提で書類を用意してたしね』
「また横田さんの予定通りだったって事ですか」
別に悪い気はしないが、どこか釈然としない部分がある。
考えるのが苦手な供助は気にしない事にしたが。
『とりあえず、話したかった事はこれだけ。来週の依頼の日にちや時間の詳しい事はあとでメールするわ』
「わかりました」
『最近特に忙しくて嫌になるよぉ、本当。そんじゃね』
電話の終わり際に溜め息をしてから、横田との通話は切れた。
「だとよ、猫又。来週にお前の実力をテストするとさ」
「それは構わん。私からすれば逆に実力査定をする側でもあるからの」
「あん? どういう意味だ?」
「お前と組む事になったが、私は供助の力の程を知らんからの。お手並み拝見と言ったところだの」
「あぁ、そういう事か。あんま期待すんな。払い屋見習いの実力なんて知れた程度だ」
「元からそう期待しとらん」
「あーそうかい、そりゃプレッシャー感じなくて助らぁ」
「ふん、プレッシャーなど感じるような性分でもなかろうが」
猫又は先ほど折った割り箸を弁当の容器に投げ入れて、微苦笑する。
対して供助はぶっきらな態度をとり、冷めた中華丼を口に運んだ。
「ところで供助」
「ん?」
猫又はゆっくりと視線を供助へと向けて、目付きが鋭くさせ。
こう言った。
「中華丼、一口くれんかの?」
「断る」




