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      霊石 -オクノテ- 参

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 大きく息を吸ってからの、無呼吸の連打。

 南が培った空手技の雨が、嵐の如く天愚へ振りかかる。

 掌底(むね)裏拳(みぎほほ)前蹴り(きんてき)刀峰(のどもと)弧拳(あご)鉄槌(みぎかた)下段横蹴り(ひだりふくらはぎ)上段横蹴り(ひだりそくとうぶ)

 流れるような素早い乱舞は的確に、確実に。天愚の体力を削り、意識を奪っていく。


「ご、ぉ」


 脳が揺さぶられる。視界が霞む。傷の出血が増す。

 逆流した血混じりの胃液を口から垂らし、気絶寸前でよろめく天愚を見据えて。


「せぇああああぁぁぁっ!」


 深く腰を落とし、全身全霊を込めた一撃。重く鋭い正拳突きが天愚の胸部へとめり込む。

 天愚は死を前にして覚醒した意識のせいか、まるでスローモーションで体内から骨が砕ける音が響く。

 直後、天愚の体は大きく弾け飛んで木に激突した。


「がはっ!」


 しかし、倒れない。天愚は前屈みでたたらを踏むに留まり、辛うじて意識を繋ぎ止めていた。


「ドー、ピング……か!」

「あたしゃスポーツマンじゃねぇ、払い屋だかんな」


 すぐさまダッシュで天愚との距離を詰める南。

 余計な間は挟まない。回復させる暇は与えない。もう時間は掛けれない。

 強力な一手。故にリスクもある。与えられた効果時間は、たったの三分のみ。


「使えるモンは使うさ!」


 普段の南では決して使わない戦法。己の肢体を使う肉弾戦は常に霊力を消費する為、霊力の総量が少ない南には最も縁遠い型である。

 あの日見て、衝撃を受けて、助けてくれた。憧れたあの人の戦い方。

 今、この時だけは、あの人のように。己の拳で戦える。


「小娘、が、人間がぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 足が動かない。腕が上がらない。回避も、防御も、反撃も、叶わない。天愚は南に――――適わない。

 ここで終わる。これで終わる。野望が終わる。天愚の命が、終わる。


「これが……」


 残り時間はあと数秒。間に合う。出し切る。

 利き手に霊力を集中する。親指を除く四本指を揃えて伸ばし、貫き手の型を作って。


「これがぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ――――強い力を持つ霊や妖怪ほど、知恵を付け、知能が高い。


 天愚のように南の弱点に気付き、そこを突いて攻めてくる輩は今までに少なからず遭遇した。

 だから、南は多様な武器をいくつも使う。相手に“様々な武器を駆使するのが強み”だと考えさせ、同時に“弱点である霊力の少なさを補う為の武器”だと思わせるように。

 武器を使用して敵を倒せればそれでいい。報酬を貰って終わりだ。じゃあ、倒せなかった場合はどうなるか。それは御覧の通り。


 全ての武器、攻撃を凌ぎ切った敵は“相手は戦う手段が無くなった”と錯覚する。なぜか。さっき言った通り、気付ける程の知恵と知能を持つからだ。

 知恵を持つから相手の弱点を突こうとする。知能が高いから攻略しようとする。

 頼みの綱かつ強みである武器を消耗して失い、さらに霊力が尽きれば。結果、敵は――――|殺してもいないのに勝ちを確信する《・・・・・・・・・・・・・・・・》。

 それを逆手に取った切り札。霊力が少ない南だからこそ、意表を突ける一手。

 卑怯だろうが何だろうが、弱点を認めて欠点を補う。その為には使えるモンは何でも使う。


 弱点で油断を誘い、欠点で欺いて。情けなかろうが泥臭かろうが、戦って勝つのが――――。


「あたしの戦い方だぁぁぁぁああッ!」


 南の咆哮と共に、その右手が天愚の腹を貫いた。


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