霊石 -オクノテ- 弐
「ま、マシなだけで死ぬ気はねぇけどな」
そう呟いた南の舌上には、淡く光る異物。
持っていた最後の一つ。口元を拭った時に口内へと隠し入れていたもの。
「畜霊石……ッ!?」
天愚の目が映したのは、まだ輝きを宿した透明な石。瞬間、天愚の頭には様々な思考が巡る。
霊力が尽きた武器の石と交換。そのまま石の霊力を相手にぶつける。ここにきて新たな武器の使用。新たに生まれ出る選択肢の数々
しかし、どれも正解ではない。天愚は正解に辿り着けない。
南が見せる答え。それは――――。
「んぐっ」
――――飲み込んだ。
残り一つ。最後の希望を。南は飴玉よろしく飲み込んだのだ。
「それが……それが何だというのだぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
だが、天愚は止まらず。疾走した勢いのまま、貫き手を放つ。
死に損ないを始末するなど容易い事。今さら何を止める必要があるか。
――――パシン。
「あんま使いたくなかったんだよな。反動あっから」
肩幅まで開いた足を内股にし、両手で円を描くように攻撃を払う技。
空手の基本技であり、至高の受け技。それは見事な回し受けであった。
そして、当然。攻撃を払われた天愚が剥き出す隙。無防備の胴体を見逃さない。
「しっ!!」
コンパクトな動作から、渾身の爪先蹴りが炸裂する。
天愚の腹部。怪我を負っている部分への追い打ち。
無慈悲に傷口を突き抜く蹴りは内臓を抉り、脳にまで駆ける痛覚は想像を絶する。
「ぎ、ああああああああああああああああぁぁあぁぁあっ!!」
口を大きく開け、絶叫。悶絶。苦悶。
比較的柔らかい素材のスニーカーの爪先と言えど、その威力は抜群のもの。
前屈みで腹部を抑え、一歩、二歩。後ろへ退く天愚。
「な、ぜ……霊力は……確か、に、尽きて、いた筈……!」
瞳孔を開かせて戸惑い、混乱する天愚の前には。
体から溢れ出る程に強力な霊気を纏い、活力に満ち溢れている南が立っていた。
「ふぅぅぅぅ」
南は大きく息を吸い、全て吐く。逆腹式呼吸と言い、空手では息吹と呼ばれている呼吸法。
南の奥の手、『蓄霊石飲み』。それは畜霊石を飲んで体内に入れ、自身の霊力を呼応させる事で、石に蓄積した霊力が使えるようになる。
一時的に自身の霊力が爆発的に向上する、いわば火薬のようなもの。
その効果は畜霊石の残量によって比例する。そして、今回の場合は見ての通り。最大蓄積での使用である。
「ふっ!」
短く吐き出す呼吸。それを皮切りに南が駆け出す。
前蹴りからの間は、ものの五秒。そんな短い時間では天愚の回復は追い付かない。
未だ膝が笑ってよろける天愚へ、南は一気に畳みかける。




