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第九十三話 霊石 -オクノテ- 壱

 手出しは要らない。必要ないと。南は口元を袖で拭って立ち上がり、天愚を見据える目には燃え盛る戦意を取り戻す。

 嬉しかった。供助が選択肢を与えてくれたのが、凄く嬉しかった。

 何も言わず加勢するのではなく、わざわざ聞いてきたのは信じてくれているからだ。まだ一人でも勝てると思ってくれたからだ。

 なら、あたしはその期待に応えなきゃならねぇと。南は自分自身を奮起させる。


「そうか。じゃ頑張りな」


 供助は僅かに口を緩めてから抑揚のない声で返し、まだ痛む体へと鞭を打って立ち上がる。

 体中が痛むが足に力は入る。痛みを気にしなければ走っても問題無いのを確認して。

 供助は南を置いて、飛ばされてきた方へと戻って行った。


「く、くか……かっかっかっか!」


 目に光が戻った。威勢も戻った。だが、それだけ。体力も霊力も尽きかけの死にかけ。

 南はへとへとで、ふらふら。押せば倒れそうな貧弱な構え。体力も気力もとうに限界。手元に残る武器は霊力切れの警棒のみ。

 予想外の乱入があったが、結局は元通り。自分の運の良さに高笑う天愚。笑わずにはいられない。


「しかし、解せんな。なぜそこまで一人で戦う事に(こだわ)る? 傷を負い、追い込まれ、だのに仲間に助けを求める素振りすら見せん」

「あたしはよぉ、ちょいと前までは知らなかったんだ。幽霊だの妖怪だの、んなモンはただのオカルトだとしか思ってなかった」

「……?」

「それがだ。車で事故って目ェ覚ましてみたら、今まで視えてなかった所も、視えてなかったモンも視えるようになっちまった」

「後天的な霊能力の目覚めか。だから何だ?」

「そん時、あたしに纏わりついた奴もそうだった。人がどうこう出来ないのを良い事に、へらへらと笑う。優位な立場で痛めつけて、にやにやと面白がる」


 生まれて初めて霊を視て、前兆も無く目覚めた霊感に悩まされ、右も左も解らない時に憑きまとった老齢の悪霊。

 アイツと同じだ。甚振(いたぶ)るのを楽しむ。(なぶ)るのを楽しむ。踏みにじるのを楽しむ。

 ゲロ以下の、クソみてぇな、カス野郎。


「腹ぁ立つだろ、なぁ? ムカッ腹ぁ立つんだよ、なぁ!? 何も知らねぇ子供を巻き込んで! テメェみてぇに自分が優位になる事しか考えず、自分より弱い奴しか狙わねぇ戦わねぇ!」


 嫌悪を丸出し、苛立ちを表し、本音を吐き出す。


「んな奴に背中見せて逃げるくらいならよ、死んだ方がマシだ……!」


 口の中の胃酸混じる酸っぱい唾液を、ペッと吐き出し。

 南は嫌忌を孕ませた瞳で天愚を睨みつけた。


「くっくく、その結果が仲間に見捨てられ、下らぬ意地と矜持で命を落とすとは。いや、むしろ賢明か? あの小僧も足を引っ張るだけの死にかけなぞ助ける意味も無いからなぁ!」

「へ、へへ……」


 饒舌になる天愚を前にして、南は余りにも耐えられなかった。耐えがたく、堪らなく、笑いが漏れた。


「自分の事しか考えないテメェにゃ解んねぇか。ここまで来ると惨めだな」


 相手を馬鹿にし、呆れた笑みをわざとらしく作って。


「これが信頼ってヤツだよ。お前、誰にも頼られた事ねぇだろ? 口先だけで仕事出来なさそうだもんな」

「こ、の、言わせておけば……!」


 煽る、煽る。南はさらに煽る。煽り返す。

 明らかに状況は不利で、今にも倒れそうなのに。口撃の鋭さは増していく。


「器量も度量も無ぇのにプライドだけが高くなる。妖怪にも居るんだな、自己評価だけはクソ高い能無しってのは」

「良く回る舌だ! 喉元から引き千切ってやる!」


 南が突いたのは図星か、トラウマか。

 天愚は白色の髪と髭を逆立たせ、みるみると怒りの形相に変貌して。

 貫き手の構えを作り、南の首を狙って疾走する。

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