消耗 -フンバリドコロ- 肆
「終いだ」
天愚は血が滴る右手で手刀を作り、南のか細い首へと狙いを定めてゆっくりと近付く。
「死……」
バキバキバキバサバキ――――!
突如聞こえてきた、激しく枝木が折れる音と、枝葉が擦れる音。
その直後、大きな茂みに何かが落下してきた。
「なんだ!?」
「ぐ、っそ……っ痛ぇ」
突然の乱入者に、天愚は手を止めて音がした方へと警戒を強める。
苦痛に眉を皺寄せながら茂みから体を起こし、片手と片膝を地に突いて息苦しくしている人物は。
「古々乃木先輩……ッ!?」
ケガレガミと戦っているはずの供助であった。
予想だにしていなかった展開、しかも空から降ってくるという唐突過ぎる登場に、南は驚愕せずにはいられない。
しかし、南以上に動揺していたのは天愚だった。南を追い詰めていたとは言え、互いが限界を迎えている状態。
そこに増援が来たとなれば形勢が逆転し、今度は天愚が追い詰められる形となる。
「み、なみッ!? まさか、落っことされた先、に……お前等が居るたぁ、な」
木枝と茂みがクッションになってくれたお陰で、いくばかダメージは軽減された。
が、それでもかなりの距離と高さから落下したのだ。打たれ強い供助と言えども、体の節々には激痛と、着地の際に背中を打った影響で呼吸がまともに出来ていない。
「ここに来て加勢だと……ッ!」
敵のトドメを刺す直前で現れた敵の増援に、天愚は焦りを隠せない。
狩る側の絶対的な立場だった者が、確実に殺されるのは自分になったのだから。
そして、南は。供助の合流に安堵と安心が胸を駆ける。
――――が、その感情が沸いた自分の弱さに気付き、振り払い。南が取った行動は。
「古々乃木先輩ッ! 和歌達がヤベェかもしれないッス!」
情報の共有。それが最優先。
助けを求めるでも、共闘を頼むでも無い。一人の払い屋として、これが最優先で最適解。
「あぁ、ついさっき知った……!」
南に答えながら息を整え、地面に当てた手へと僅かに力を込める供助。
供助の言葉で南は理解する。和歌達は向こう側に現れたという事に。
そして、供助は疲弊し消耗しきった南の姿を見て、苦戦を強いられているのを知る。
「南……手、貸すか?」
地面に添えた供助の手は淡く光り、霊気が放たれる。
しかし、南に向けられた問いに混ざるそれは、挑発にも似た笑い。
腕を動かすのも辛い。呼吸をすると苦しい。それでも南は笑い返して。
「要らねぇッスよ」
仲間の助勢を、即答で拒んだ。
「これはあたしの敵で、あたしの闘いだ」




