表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
350/457

      消耗 -フンバリドコロ- 参

「か、あ、っは……!」


 苦悶に染まる天愚の表情。当たり前だ。

 猫又に負わされた大怪我を鷲掴みされ、さらには指で抉りながら手首に捻りを加える。

 血止めとして巻かれた白布は赤く染まり、南の手首からは滴り落ちる血。

 傷口に塩を塗るとはこの事か。その痛みは想像もしたくない。


「は、なせ……」

「ぐぎぎぎっ」

「離せぇぇぇぇぇ!」

「んがッ!?」


 激痛に息を荒々しくしながら、天愚の裏拳が南の顔を捉える。

 掴まれる手の力が緩んだ隙に天愚は離れ、南を忌々しげに睨めつける。


「こ、小娘が……!」


 今までの攻防で痛みに耐えていたのは南だけではない。奴もずっと傷の痛みに耐えていた。

 天愚の額には大粒の脂汗がいくつも浮かび、顔色も一気に土気色に。


「先に止血せねば……」


 足元をフラつかせ、天愚は溶け込むように闇に紛れる。

 結界の効果で妖気を辿るのは不可能。隠れれば南に見付かる事はないと、天愚は木影に身を潜める。

 懐に忍ばせていた止血用の薬草を取り出しながら、南の位置を確認する。


「……居ない? 奴も追い打ちを恐れて身を隠したか」


 ならば僥倖。天愚は南を気配で追えて、南は霊感で妖気を追えない。

 時間を掛けても問題ない。止血して体力をわずかに回復すれば、再び同じ手で容易に追い込めれる。


「な、に……っ!?」


 ふと。背後に感じた気配。空気の流れと言ってもいい。

 索敵手段がないという先入観。激痛から散漫した注意力。

 相手より有利という慢心から生まれた気の綻びが、南の接近を許した。気付かなかった。


「しっ!」

「ぐぬっ!?」


 喉元を狙ったサバイバルナイフの一刺し。

 しかし、咄嗟に出した天愚の手の平に貫通し、喉まで届かず。


「ちっ、も少し気付くの遅けりゃあの世行きだったのによ」

「貴様ッ、どうやって……!?」


 サバイバルナイフの柄尻を左手で押し込み、そのまま喉元へ突き刺そうと力を込める南。

 当然、天愚もそれだけは避けようと必死に抵抗する。


「いい、加減……に、しろ、貴様ぁぁぁあっ!」

「ぶふっ!」


 荒々しい声を上げ、天愚の蹴りが南を突き飛ばす。

 忌々しげに、苛々して。天愚は乱れた呼吸を整えながら手に刺さったナイフを抜く。


「だから嫌いなのだ、人間はっ! 醜くしぶとい!」


 天愚は余裕は消え失せ、感情のままに口にされる言葉。

 己の血糊が付いたサバイバルナイフを、不快極まりないと投げ捨てる。

 そして、天愚は衣服の肩の所に引っ掛かって光る物を見付けた。


「なるほど。さっきの電撃の時に刺していたのか」


 それは釘。南は投げた釘を拾い、畜霊石に僅かな霊気を溜めて服に刺していた。

 結界内で天愚の妖気を探るのは不可能。だが、自分の霊気となれば話は別。

 妖気が漂う一帯で霊気……それも自身のものを辿るのは簡単な事。南は釘を再利用して即席の探知機としたのだ。

 しかし、だ。何とか捻り出した逆転の一手も、奇襲もあと少しの所で失敗で終わった。


それは釘。南は投げた釘を拾い、畜霊石に僅かな霊気を溜めて服に刺していた。

 結界内で天愚の妖気を探るのは不可能。だが、自分の霊気となれば話は別。

 妖気が漂う一帯で霊気……それも自身のものを辿るのは簡単な事。南は釘を再利用して即席の探知機としたのだ。

 しかし、だ。何とか捻り出した逆転の一手も、奇襲もあと少しの所で失敗で終わった。


「だが、さすがに限界か、小娘。俺を探し見付けた運は認めるが、それで運が尽きたな」


 釘をへし折り、天愚が向けた視線の先には。


「う、ぐ……おぇ、え」


 両の腕は小さく痙攣を起こし、四つん這いで胃の中身を嘔吐する南の姿。

 残り少ない霊力と武器で攻め手を考え、数手先までの布石を打ち、それでもあと少しが届かず。

 南の霊力はもう、底をついた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ