相棒 ‐キョウリョク‐ 参
『相変わらず、生護と香織君が残した貯金は使ってないの?』
「あれは……出来るだけ崩さないようにしてます」
『そっか。じゃあつまり、猫又ちゃんの食費が欲しい訳ね?』
「欲しい訳です」
『なるほどねぇ、なるほどなるほど』
そもそも上司である横田が出した案であるのに、供助が自腹で払っている事がおかしいのである。
猫又の世話をして、さらに食費まで掛かるなんて泣きっ面に蜂とはこの事。
『なら調度良かった。俺もちょっと話す事あったんだけど、これなら話がしやすいよ』
「なんです、その話って?」
『悪いけど携帯電話、スピーカ―モードにしてもらえる?』
もしかして経費で猫又の食費が出るのかと、小さく期待する供助。
とりあえず、言われた通り携帯電話をスピーカーモードにしてテーブルに置く。
「しましたよ、横田さん」
『ちなみに、今そこに猫又ちゃんは居る?』
「うん? 横田か、居るぞ」
『どう? 怪我の具合は』
「うむ、まだ完治とまではいかぬが、大分良くなっておる。こうしてご飯も一日三食しっかり食べれるからの」
『さすが妖怪、回復が早いねぇ』
「あと二、三日もあれば完治するんじゃないかの」
『そりゃ良かった』
猫又は横田に答えながら、おかずの漬物をポリポリと食べる。
「んで、何が調度良くて何が話しやすいんですか?」
『うん。実はねぇ、供助君と猫又ちゃんを組ませようかと思ってさ』
「組ませる……って、俺とこいつがぁ!?」
『そそ。うちの協会でも珍しくないでしょ? 妖怪と組んでいる払い屋って』
「まぁ、そうですね」
協会というのは、横田が所属している自衛、管理団体。
正しくは“異路の協会”と呼ばれるもので、人智や常識を逸し、この世の均衡を崩す存在を許さない。
協会には様々な部類があり、また多種多様な機関が混在する。横田が所属しているのはその中の一つである幽霊、妖怪に対して祓う能力が特化した者達が集まる『妖霊機関』。
妖霊機関は主に人畜有害な妖怪や幽霊の類を祓う事を目的としている。有無を問わさず祓う事だけが目的ではなく、場合によっては共存するという形を取ることも珍しくない。
中には人間に協力し、妖霊機関に属して払い屋として働く妖怪も少なからず存在している。
ちなみに供助はあくまでバイトであり、協会には正式に所属していない。
『猫又ちゃんと組めば仕事の効率も上がって苦労も減るから、いい案だと思うんだよね』
「俺は一人の方が気が楽なんですがね」
『でもほら、組めばもう少し難しい仕事も任せられてバイト料も上がるよ? そうすれば猫又ちゃんの食費も稼げるし』
「確かに……あ、調度良いって言ってたのって」
『そゆこと。俺としては君と猫又ちゃんを組ませたい。供助君は猫又ちゃんの食費が欲しい。互いにいい話じゃないのよ』
「あー、なるほど、読めた。都合の良いように言ってるけど、実際は人手が欲しいだろ。猫又が組んで自分で食費を稼いでもらえば経費削減になるしな」
『ぎくり』
「やっぱり」
『だってしょうがないじゃないの。人喰いの件で人員を多く割いたせいで人手不足なんだから。まさに猫の手も借りたい状況なのよ』
職業が職業なだけに、協会の払い屋は頻繁に人手不足に陥っている。
ただでさえ霊感を持つ者が珍しいのに、さらに霊や妖怪を払えるほど霊力が強い人間は限られてしまう。