煽合 -タイマン- 参
「たかが人間風情がっ! 許さん、許さんぞぉぉぉぉぉ!」
「許す許せねぇを決めれる立場だと思ってんのか?」
激高する天愚に対し、反して南は冷静に。
頼みの綱であった数珠を破壊され、怒りの頂点に達した天愚。鬼の形相とはこの事か。
力と速さは相手が上。それは重々承知している。だが、相手は手負い。つけ入る隙はいくらでも作れる。
ならば、こちらは器用さと工夫で立ち回る。相手はまだ構えを取っていない。ここは先に――――。
「仕掛ける……!」
「嘗めるな小娘ぇぇぇぇ!」
先程とは打って変わって先手は南。ダッシュから右手のナイフによる刺突。
「ふっ、しっ!」
顔、胸。上払いから柄底落とし。一歩詰めてさらに一突き。
「その程度の練度で倒せると思ってか!」
「ちぃ!」
天愚の身体能力の高さ。山で生きていた神の使い。体の作りは生半可ではない。
身軽な動き。躱す動作も細かく当てるどころか隙も作れない。
しかも。
「そこだっ!」
「んなっ!?」
南の横払いに合わせ、鈎爪で上手く攻撃を弾かれる。
体勢が小さく崩されるも、防御は間に合う。視界も相手を追えている。
警戒すべきは毒が塗ってある鈎爪――――。
「が……っ!?」
右腕と肩甲骨にかけて走る鈍痛。
鈎爪に意識が向いていたのを突かれて。天愚の容赦ない蹴りが放たれていた。
「意識し過ぎてるのはどっちだって?」
蹴りの衝撃で、南の体が大きく横にのけ反る。
してやったと口端を上げる天愚。さっきの意趣返しだとほくそ笑む。
体勢を崩して無防備な背中をさらけ出し、天愚は鈎爪を付けた右手を高く振り上げ。
「喰ら……」
――――ごっ。
鈍い音が、天愚の耳に……いや、頭に響く。
南の背中を捉えていた視界は、なぜか地面を映している。
なぜ。揺らぐ視界と、思考を邪魔する頭部の激痛。
「どっち? そっちだろ」
にやりと微笑むは南。天愚の後頭部に打ち当たったのはヨーヨー。
力と速さでは勝てない。だから、持ち前の器用さと工夫で戦ったのだ。
蹴りを喰らって大きくのけ反った動きに合わせて、左手に持っていたヨーヨー。それを遠心力を加えて放っていた。
勿論、天愚とは別方向へと飛ばされたが、ここは森林。周りに木が沢山ある。
「糸……を、木に引っ掛け、て……!」
「正解ッッ!」
ヨーヨーによる後頭部への強打。前のめりによろける天愚の頭部を鷲掴み、南は顔面に膝蹴りを噛ます。
天を仰いでのけ反る天愚は完全に無防備。この機を見逃さない。
南は素早く左手のヨーヨーを外してサバイバルナイフに、右手はデニムの内側に挟んでいた警棒へと持ち替えて。
「どっせぇぇぇぇ!」
「ごがっ!」
天愚の顔面へ横薙ぎのフルスイング。
しかも、抜かりなく。左手のサバイバルナイフは鈎爪の曲がった切先部分に引っ掛けて。
吹っ飛ばしだけで終わらず、攻撃による反動を利用して、相手の右手から鈎爪を引き剥がす一芸を見せた。
「大事な物はちゃんと握ってなきゃダーメでしょ、っと」
カン、カン、キン。
剥ぎ取った鈎爪を器用にサバイバルナイフの刃で弾き浮かせて、警棒でホームラン。
天愚の得物は森林の暗いどっか奥に消えていった。




