煽合 -タイマン- 弐
「やっぱ力じゃ分が悪ィ……が、なーんか腑に落ちねぇなぁ」
腕の痺れを払うように軽く手を振らせ、南は一人ごちる。
南のように蹴りをしたり、左手で攻撃も出来たはず。なのに天愚は、右手に左手を添えて鈎爪の攻撃一点にのみ力を集中させていた。
そこまで鈎爪に固執する理由。他のリソースを割いてでも集中する訳。
「……毒か?」
ぽつり。口から呟かれる可能性。
鈎爪自体の殺傷能力は高くない。急所に当たっても即死するのは稀。
だが、“当てれば死ぬ”ようにする事は可能だ。方法は簡単、切先に毒を塗ればいい。
そうすれば小さなひっかき傷でも時間経過で衰弱し、おっ死ぬ。
「フン、気付いたか」
「古典的な使い方するじゃねぇか。雑魚が良く使う手だ」
「毒に気付いただけで調子に乗るか。若さ故に愚劣だな」
「調子に乗る? 違ぇよ、こりゃ分析だ。だってお前、つまりは“毒に頼らなければ負けちゃいます”って宣言してるようなモンだろ?」
「貴様ぁぁぁぁぁぁ!」
力勝負では負けても、挑発勝負では口が回る南に軍配が上がる。
そして、頭の回転も。
「そらよ!」
「そんなものではなぁ!」
釘の投擲。三本の釘が天愚の目を狙うも。
すでに一度見せた武器。予想の範疇だと鈎爪の甲で簡単に弾かれる。
「毒に気付くのは流石と言えるが、それにばかり意識し過ぎだな!」
「意識し過ぎてんのはそっちだろ。ガラ空きで助かるわ」
バヂンッ!
南から見せる不敵な笑み。天愚の左手に走る痛み。
突然の衝撃に、天愚の左腕は大きく上に弾けた。
「ハナっから狙ってんのはこっちなんだよ!」
南の左手から伸びるヨーヨー。衝撃と痛覚の正体に気付いても遅い。
大事に大事に握っていた数珠は、意識外からの攻撃によって左手から手放されて。
緩い弧を描いて南の頭上に飛んでいく。
「貴、様……! やめろぉぉぉぉぉ!」
「やだね」
――――キン。
サバイバルナイフで振り上げ一閃。
繋ぎ止める糸が切られた数珠の玉は、ばらばらと四散する。
「あ、ぁ……数珠……せっかく貰ったというのに……」
辺りに散らばった数珠を見る顔は情けない事。
これでケガレガミは天愚の支配下から解放されたはず。合流して共闘される懸念も無くなった。
あとは供助と猫又の奮闘を祈るだけ。天愚は自分が倒すと言った以上、情けない戦いは出来ない。
『グオォォォォォォッ!!』
森林全体にも響く絶叫。その振動に枝葉が小さく揺れる。
聞こえてきたのは工事現場の方角からだった。
「今の……ケガレガミの声、か?」
「ああ、ああぁ……俺の計画が……」
ここからが本勝負。踏ん張りどころ。
南はサバイバルナイフを構え直し、大きく息を吐く。
「さぁ、お互い独り身になったんだ。タイマンといこうや」




