穢神 後 -ケガレガミ コウ- 伍
「こん、の……やろ!」
腹部を押し潰そうとしてくる丸太もどきに、供助は痛みと苛立ちを顔を歪ませるも。
力勝負なら負けやしねぇと。持ち前の霊力の多さを活かし、壁にめり込んだ体勢から押し返していく。
「んっだ、踏ん張りが足んねぇんじゃねぇか……!?」
奥歯を食いしばり、額には血管を浮かばせ。薄ら笑いを見せる供助。
「オラァ!」
拳を垂直に振り下ろし、勢い良く地面へと叩き込まれる丸太もどき。
また形を変化させて追撃が来る前に、供助は大本である本体へとダッシュする。
「ニク、ヲ、ヨコセェェェェ!」
決着しない戦闘。消耗していくだけの体力。
ケガレガミの力も底が見えは始めたか、切迫感が迫る叫びをあげた。
「なんだ、お前喋れんのか」
「供助、下から来てるの!」
「ああ、分かってる!」
会話の直後、供助の足元から突き出る無数の触手。
近寄る供助を串刺しにせんと伸びるが、その全ては空を斬る。
が、しかし。地面から触手が出てきたという事は。つまり。
――――ギィィィィィィ!
地中を通して本体と繋がり機動力を得た歯車が、背後から供助の狙っていた。
「その程度の騙まし討ち、読んでおる」
そんな展開など、今までの戦闘で予測済み。
先読みしていた猫又はすでに飛んでいて、構えていた。
――ひゅん。
暗く黒に包まれた夜の空間に。多くの白い線が走る。
「微塵に切り刻めば再利用も出来ぬだろう?」
爪による乱れ斬り。細かく刻まれた歯車は、黒い雨の如く地に散る。
「しかし、これだけの乱発は流石にくたびれる……あとは頼むの、供助」
着地するなり膝を着き、肩で息をする猫又。
「本体のどっかにあんだろ? 核とやらがよぉ!」
わざわざ攻撃用に変形させた歯車に核を移動させる真似はしないだろう。
現に猫又が粉微塵にしてもケガレガミは健在。ならば、残る本体のどこかに核はある。
「しこたまな殴れば当たらぁなあっ!?」
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。どうせ大穴万馬券、一発大当たりなんて展開は起きないのだ。
だったら何発何十発と打ち込んでやると。供助は両手の拳に霊力を集密させる。
「すぅぅぅぅぅ」
深呼吸から、肺に空気を一杯に溜めて。
目標はもう目の前。迎え撃たせる時間は与えない。
「ふ――――ッ」
まさに息継ぐ間も無い、無呼吸乱打。
視界に入る黒い物体を、しこたま殴る。思いっ切り殴る。ただ殴る。
右と左。交互に何度も素早く、しかし拳は重く。
「イ、ギ……グ……ギ……!」
額、頬、左肩、右横腹、右二の腕、首、左胸、左側頭部。次々とケガレガミの体は削れ、風穴が空く。
鬼気迫る供助の猛攻。打撃のスピード、一つ一つの拳撃の威力。次々に繰り出される回転力。
狙う箇所が無い。がむしゃらに、且つひたすらに打ち込めばいいだけ。シンプルだけに行動は簡単。
故に単細胞な供助には、この上なく合った戦法である。




