相棒 ‐キョウリョク‐ 弐
供助は弁当を温め終えて茶の間に戻り、片手に箸を装備して座る猫又に弁当を渡す。
猫又はそれをテーブルに置くと、すぐに蓋を開けて食事を開始する。
「あっつ! 供助、温め過ぎだの!」
「知らねぇよ。お前が猫舌なだけだろ」
「私は猫だからの。猫舌で当然だの」
コップにお茶を注ぎ、涙目で一口飲む猫又。
感情と連動しているらしく、いつも立っている耳はぺたんと倒れている。
「つーかよ、猫又」
「ん? なんだの?」
「お前、玉ネギ食って大丈夫なのか? 確か犬とか猫ってネギ類食ったらダメなんだろ?」
猫又が食べているのは生姜焼き弁当。豚肉と一緒に炒められた玉ネギが容器に盛られている。
世間ではネギ類に含まれる成分が、猫や犬の赤血球を破壊すると言われている。与えすぎると最悪死ぬ場合も珍しく無い。
ただ、それはあくまで普通の犬猫の話であって、妖怪の場合はどうなのかは解らない。
「馬鹿にするでない、私は妖怪だからの。それぐらいへっちゃらだの」
「いや、お前さっき自分で猫だとか言ってただろ」
「むぅ……供助の中華丼も美味しそうだのぅ」
「一口たりともやらねぇ」
供助は猫又の視線を無視して、箸で中華丼を口にかっ込む。
小さめのエビや白菜に、木耳とうずらの卵。
全体的に小さい具ばかりで特別美味い訳でもないが、半額という点を考慮すれば悪くない。
「あん?」
口の中のを飲み込み、二口目を箸で掬おうとした時。供助のズボンのポケットから音楽が流れ出した。
音楽の原因である携帯電話を取り出すと、画面には『横田さん』と表示されていた。
「やっとかよ……はい、もしもし」
『やー、五日振り。調子はどーよ?』
「嘘でも良いとは言えないですよ」
『あらま、そりゃ大変だねぇ』
「誰のせいだと思ってんですか? 連絡しても全く繋がらないから困ってたんですけどね」
「ごーめんごめん、こっちもバタバタしてたのよ」
横田の全く感情が篭っていない謝罪。普通ならば腹を立てるところだが、付き合いの長い供助はもう慣れていた。
猫又と同居することになって早五日が経って、早くも重大な問題点が浮き出てきた。
その事で横田に連絡を取ろうとしたが、今日まで一切繋がらなかったのだ。
『こっちからも話したい事があるけど、先に供助君の話を聞こうじゃない。どったのよ?』
「どうしたもこうしたもねぇよ……猫又の護衛をするのはまだいいですよ。ただ!」
『ただ?』
「こいつの分の食費は出してくださいよ! このままじゃ俺の食費が無くなる!」
「うむ?」
横で美味しそうに弁当を頬張る猫又を指差す。
供助はバイトをして生活費を稼いでいるが、それはあくまで自分の分だけ。
一人暮らしで困らない程度にバイトをしていたが、猫又が住む事になって食費が二倍に増えた。
自分の生活費しか稼いでいない供助にとって当然食費は嵩みに嵩み、ここ五日間で財布が急速に薄くなっている。
家計が火の車になるのは時間の問題。