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      枯愚 -ラクゴシャ- 弐

「あの格好にあの鼻……ありゃ天狗か?」

「だとしたら、簡単な相手じゃないッスよ。古々乃木先輩」


 南が厄介さを払拭しようと無理に笑って出たのは、苦笑い。

 それも無理はない。相手が天狗だと知ってしまえば、余裕など消えてしまう。

 日本全国、津々浦々。伝説、伝承、昔話、言い伝え。数多に広く記し残されている天狗。

 天狗とは文字の通り“天の狗”。つまり神様の使いと言われている。

 中でも力を持った天狗は、神の使いではなく“神”とされた存在もいたとされる。

 目の前にいる天狗が神とまでいかないにしろ、そこいらにいる妖怪とは比べ物にならない上級妖怪。

 南の頬には緊張の汗が滴る。


「人間二匹に……妖も混ざってるな。一匹」


 顎髭を撫でながら睨め付けてくる天狗に、供助も睨み返す。


「てめぇがガキを攫った犯人か?」

「解り切った事を聞くなよ」

「じゃあ分かんねぇ事を聞く。攫ったガキ共は……?」


 供助の問いに天狗は。

 にまり。無言で笑って返した。


「……あの鼻っ柱ぁ折ってやる」


 その態度を見て目を見開く南。

 サバイバルナイフを握る右手が、ぎちりと軋む。


「挑発だ、乗るでない」


 一歩前に出て、猫又は頭に血が昇りかけの南を抑制する。


「奥から複数の人の匂いがする。死臭はせん」


 目は天狗から離さず、嗅覚は集中させて。

 猫又は辺りの匂いを嗅ぎ分け、カラーコーンが設置されている奥から匂いがするのを突き止めていた。

 そして、僅かに目を細めた後に、小さく鼻を鳴らして天狗へ言う。


「大体の合点がいった。お前、天愚(・・)だの?」


 猫又から放たれた言葉に、天狗はピクリと眉を強張らせる。

 また、その顔には平然を装うも不快さを感じているのが読み取れた。


「さらに正しく言えば、“枯らす天愚”」


 猫又は薄らと笑みを浮かばせて、天愚へと意趣返しする。


「枯らす、天愚? 鴉天狗じゃなくてか?」

「うむ。それが奴の正体だの。南、奴の容姿をよく見てみるといい」

「容姿だぁ?」

「神からの授かり物である羽団扇、錫杖、隠れ蓑。どれ一つも持っておらん。先ほどの奇襲がその証拠」


 言われて確かに、と南は呟く。

 妖気と気配だけでななく、匂いすら消す隠れ蓑があれば、無傷で済んでいなかった。なのに使用したのは短刀のみ。

 天狗と言うには足りないパーツが多々ある。身なりは少し小汚く、清潔さも高貴さも無い。

 神の使いにしては威厳も、尊厳も。まるで金メッキが剥がれて裸になった銅像みたく。

 その姿はまさに“落ちぶれた”と言うにぴったりくる。


「本来ならば天狗は鷹や鷲のような茶金に輝く羽があると言われておる。だが、奴の背中にあったのは……黒い羽の跡(・・・・・)のみ」


 先ほど供助が奇襲を防ぎ、猫又と南の攻撃を避けた際。

 猫又は奴の背中の違和感を見逃さなかった。千切られたであろう羽の名残。僅かに残っていた黒い翼の根本を。


「仕える神に反した罰により武具は没収され、羽は切り落とされ、残った根本は輝きを失うという。神の使いが悪事を働けば主である神の神位、気品を損なわせ、気を枯らす。神とする天に仇なす愚か者として与えられた別称……いや蔑称か。それが枯らす天愚」


 ぺらぺらと解説する猫又へと、ふつふつと蓄積されるは腹立たしさ。

 天愚の表情は徐々に不快感を表に出していき……。


「あまり(かしこ)過ぎるのも問題だな。命を縮める」


 怒りの感情が上乗せされた天愚の睨み眼は、一層の鋭さを増す。


「……あ! 神に仕えるって、まさか猫又サン……!」

「そう。ここで“ケガレガミ”に繋がる訳だの」


 少しずつ不明だった点が見えてきた。

 そして、繋がる“神”という単語。


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