贄歌 -コロリヨ- 肆
◇ ◇ ◇
昼に和歌をナンパしてきた男二人が、なんの偶然か祭りでも声を掛けてきたのだ。
しつこいナンパとボディタッチ。せっかくのアルコールが飛んでしまう程のボルテージ。
空手経験者の南が、男二人を完膚なきまでにボコボコにする。
「いやーごめんね。そういうつもりじゃなかったんだよ」
「まぁこんなナリだからしょうがないんだけどさぁ」
……という展開にはならなかった。
なんでも二人は地域の消防団で、町を見回っていたらしい。
今夜はここでお祭りがあって地元の高校生なども多く来るから、あまり遅くならない様に声掛けをして回っていたとの事。
というか、こんな格好で誰が消防団だと思えるか。せめて法被を着ろ。
「君達、ここら辺の人じゃないっしょ?」
「わかんのか?」
「まぁ定期的に見回りとかしてるしね」
ロン毛と話をしながら、南はパイプ椅子の背もたれに腕を回してビールを飲む。
顔を覚えている訳ではないが、なんとなく雰囲気で町外の人かどうかが解るらしい。
それもあって、町外かつ未成年の供助達が見えたから声を掛けた、という流れだった。
「でもま、社会人の付き添いがいるなら大丈夫か」
「私だけじゃなく隣のネーチャンも成人済みだ。問題ねぇさ」
「うむ。私達がおれば大事は起きんて。大丈夫だの」
消防団の二人が声を掛けてきたのも、南と猫又は後ろ向きで顔が見えなかったというのもあった。
成人の付き添いがいれば大丈夫だろうと、男二人は目を見合わせて肩を竦めさせた。
「君達も気をつけてな。祭りを楽しんでくれるのは嬉しいけど、ここのところ物騒だから」
「……さっきも子供が消えたって騒ぎがあったしな」
「本当にさ、勘弁してほしいよ。本来なら海も近くていい町なのに……消防団も人を分けて探してるけど、手掛かり無しだ」
「祭りで人が多い中で探してンのか? 大変だな」
「子供は鳥居の辺りで急に居なくなったって話だからね。ここ周辺だけじゃなく、町や海の方も探さなきゃいけないんだよ」
確かに、神社付近で消えたからと言ってその周辺だけを探せばいいという訳ではない。
しかも何の手掛かりがない状況。とにかく人員を使って僅かでも解決の手掛かりが欲しい所だろう。
「あ、あのすいません。消防団って事はこの辺りに詳しいですよね?」
「まぁある程度の事なら」
「なら、この街で鳥居がある所をしりませんか?」
話に割って入って来たのは、和歌だった。
地元で消防団をしている人であれば、ケガレガミが封印されているという小祠の場所が分かるかもしれない。
「鳥居って、あの赤い門みたいなのだよね?」
「はい」
「それならこの辺りのどっかにあるだろ。神社なら大体あるぞ。ここの神社にもあるし」
「そうなんですけど、そうじゃなくて……珍しいと言うか、危なそうと言うか……」
なんて説明したらいいか分からず、言葉にするのが難しく困る和歌。
そもそも『鳥居』というヒントしか無い為、これが限界なのである。




