贄歌 -コロリヨ- 参
「和歌、この封印に関わっていそうなページ全てを写真で撮っておいてくれぬか?」
「はい、いいですよ」
「すまんの。私はスマホを持っておらんでの」
書物は神社の保管されていた物。このまま持ち出す事は許されないだろう。
もう一度見たくなった時を考え、すぐに閲覧できるよう保険は掛けておく。便利な世の中である。
「じゃあこれ、返してくるよ。貸してもらったとは言え、長く借り過ぎるのも悪いからな」
「なら私も一緒に返しに行く。お祭りの様子を少し見たいから」
和歌が撮り終わったのを待ってから開かれていた書物を閉じ、悠一がパイプ椅子から立ち上がった。
それに結花も付いていき、この場には供助一行のみになる。
二人の姿が人混みに飲まれていったのを見計らってから、太一が口を開いた。
「やっぱ神隠しって書物に乗ってた妖怪が原因ですかね、猫又さん?」
「正直わからん。情報が無さすぎるの。せめて封印された鳥居とやらの場所が解ればのぅ」
「……ですよねぇ」
「それに供助も言うとったが、神隠しの件は人の手による事件の可能性だって十分ある。怪しいからと何でも妖や幽霊が原因とは限らん」
「それは解りますけど……」
「太一が悠一と結花の事を思って言って居るのは理解しておる。だが、妖怪だなんだと不必要に恐怖や不安を煽るではない」
「そ、っすね」
ぴしゃりと忠告する猫又に、太一は失念していたと心中で反省する。
供助も不用心に話をする太一に思う所があったが、小さく肩を下げて視線を外した。
と、その時。供助の目に二人の男性がこっちに近寄って来るのが見えた。
「お、かわいい子いるねー?」
「君達いくつ?」
軽い口調で話しかけてきたのは言うまでもなく、近づいてきた野郎二人。
和歌の正面。猫又と南が座る椅子の後ろに立って、こちらを探るように見てくる。
ま、そこで一番に開口するのが誰なのかは言うまでもなく。
「飲み相手も良い男も間に合ってンよ。他あたってくれ」
後ろにいる男達に振り返りもせず。南は興味ねぇと背中越しに、ハエでも払うかのようなジェスチャーをする。
猫又に至っては完全無視。マイペースにビールをごくり。
その様子を見ている供助と和歌は、何かを思い出しそうだと微かに眉を寄せていた。
「そんな事を言わないでさぁ、ちょっと話をしようよ」
「そうそう、最近物騒だからさぁ」
しかし、茶髪のロン毛と短髪の金髪は諦めない。
それどころか有ろう事か、金髪は南の肩にポン、と。手を置いたのである。
「あ˝ぁ˝ん˝?」
お祭りで楽しい空気とお酒が飲めて上機嫌。だから穏便に済ませようとしていた南であった、が。
さすがに初対面で見ず知らずからのボディタッチは我慢ならなかった。
吊り上がった目尻と三白眼、さらにアルコールで軽く目が座り、怒りからの威圧感が加わって。
「ひ、っ」
「ひぇ……」
振り返った南の顔を見て、男二人からの返事は情けないもの。
「ナンパした女の顔見て悲鳴たぁな。声かけといて失礼じゃあねぇか?」
逃げられないようお触りされた手をがっしり掴み、南はゆっくりとビール缶を置く。
あとは南が立ち上がればゴングが鳴る。という所で。
「あ」
「あっ!」
供助と和歌。二人が同時に声を上げる。
「昼のナンパ野郎」
「海でナンパしてきた人っ!」




