探者 嵌 ‐サガシモノ カン‐ 参
本日二度目の素っ頓狂な声。
言うまでもなく、供助からである。
「えっ、いやだって……護衛、え? 俺……えっ!?」
『うん、君』
「こっちに部下を送るって……」
『送るのは人喰い捜索用の部下。猫又ちゃんに護衛を付けるとは言ったけど、俺は一言も君の家に護衛を送るなんて言っていなーいよ』
「ちょ、ちょっと待ってください。本当に?」
『本当よ。本当本当』
「うむ、本当だの。ところで供助、烏龍茶が空っぽなんだが他にないのかの?」
「猫又は黙ってろ、頼むから」
供助は頭痛に耐えるように額に手を当てる。その表情はこの上無く渋い顔。
今までの会話を思い返してみると、横田は確かに一言も供助の家に護衛を送るとは言っていなかった。
『正直な話、五日折市から半径百キロ圏内にうちの払い屋を大量に配置しなきゃなんないからさ。人手不足になるのが目に見えてるのよ』
「範囲が範囲ですからね」
『金の掛からない一軒家持ちで、君としても人喰いの情報が入りやすく、俺とも連絡を取りやすい。おまけに払い屋として腕も立つ。供助君より適した人は居ないでしょーよ』
「腕が立つ? 俺が? 買い被りですよ」
『謙遜する事ないって。俺だって君の事はそれなりに評価してんだから』
「それなり、ですか」
『そ。それなり』
ほんの少し、笑い声も含みながら。
横田はそう言った。
『それにほら、供助君、どんな提案でも協力するって言ってくれたでしょ?』
「確かに言いましたけど!」
『あら? もしかして勢いで言っただけだった?』
「い、いや……ちゃんと本心ですよ!」
『なら問題無いじゃない。いやー、本当助かった助かった。言葉を選んで話すのに苦労したよ』
「え?」
『あっ』
しまった、と。
横田が携帯電話の向こうで丸く口を開ける。
『じゃ、俺はこれから払い屋の手配やら書類処理やら忙しいから。改めてよろしくー』
「おいっ、ちょっと待て! 今……」
供助が言い終わるのも待たず、横田は逃げるようにそそくさと電話を切る。
テーブルの上には、通話が切れて画面が暗くなる携帯電話。
そして、遅れて込み上げてくる苛立ちと怒り。
「……は」
供助は項垂れて肩を震わせ。
勢い良く天井を仰ぐ。
「嵌められたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
家に響く嘆きの叫び。
供助の気楽な一人暮らしは終わりを迎え、今から始まる妖怪との同居生活。
人喰いを探す人間と、共喰いを探す妖怪。
人と妖。奇しくも存在を喰らう妖怪を追う一人と一匹。
「供助、烏龍茶が飲みたいんだがの」
さて、どうなるものやら。




