贄歌 -コロリヨ- 弐
「悠一、その書物を見せてもらってもいいかの?」
「あ、はい。どうぞ」
悠一の許可を貰い、猫又は書物を手に取ってゆっくりとページを捲る。
さっと目を通して、気になる単語を見付けた箇所だけを黙読していく。
そして、三枚目のページを捲ったところで猫又が反応を示した。
「……ここだの」
猫又は書物をテーブルに戻して、指を差す。
指先に書かれていたのは『生贄を行うはケガレガミ』という文章。
「気になるのはその先」
差していた指を移動させて、二回。指先で小さく小突く。
そこに書かれていたのは。
「“――の――ある――鳥居――封―――し”」
猫又は読み取れる所だけを音読し、所々は擦れて読めなくなっている。
「過去に生贄を捧げていた妖は祓われたのではなく、封印されたと書かれておる」
「じゃあ猫又さん、今回の神隠しはこの妖の封印が解けたから、って事ですか?」
「いや、和歌。であるならば―――」
和歌の問いに猫又が答えようとした途中。
そこで供助が会話の間に入ってくる。
「つーか妖怪がどうとか言う前に、警察はこの事件を誘拐と見て捜査してんだろ? オカルト好きも大概にしとけよ」
そもそも自分達が払い屋だという事は隠してある。要らん事を言うなよ、と。供助はテーブルに頬杖を突いて釘を刺す。
そこで猫又と和歌の二人だけでなく、太一と祥太郎も注意が欠けていた事に気付かされる。
悠一と結花は一般人。世間一般では秘匿されている払い屋という職業を、二人にバラす訳にはいかない。
「だが、ここまで知ったら気になってしまうのが人の性。もうちょい話を聞きたい所だの」
「人じゃねぇだろ、おめぇは」
猫又の横でポツリと呟く供助。
また猫又のお節介が始まったと、面倒臭がらずにはいられなかった。
「しかし、肝心の場所が読めんときた。悠一と結花、この地域に住む二人なら心当たりはないかの?」
「……私は分からないです」
「俺も心当たりがないですね」
妖が封印されている場所が記されているであろうページは、時間劣化による文字の擦れが特に酷い。
肝心な箇所が読み取れず、地元民である悠一と結花でも封印場所は分からないようであった。
「書物には鳥居と書いてあるが、そういえばこの神社にも鳥居があったの」
「でも、ここの神社は毎年新しい神様が来てますから。昔から封印されていたっていうケガレガミは関係ないですよ」
「まぁそれは神社の雰囲気で分かるがの。とは言え、はっきりと言い切るの、結花」
「地元の神社で、よく来る場所ですから」
小さく微笑みながら猫又に返す結花。
よく来る、というのは、おそらく悠一と一緒に。という意味も含まれているのだろう。
「封印された妖怪、ねぇ」
呟いて渋い顔をするは供助。その単語を聞くと、どうも先日の出来事を思い出してしまって気疎くなる。
文化祭前日に起きた一件。あれは骨の折れる依頼であった。
あの怨念に縛られた妖も、元々は封印されていたのが解けてしまったのが始まりだった。
ふと、なにか。供助の中で違和感が駆ける。
「古々乃木先輩? どうかしたッスか?」
「……いや」
どこか不穏な雰囲気になった供助に気付き、南が声を掛けるも素っ気なく返す。
確信もなければ理由も無い。ただの供助の勘が、違和感を訴えただけ。
供助は表情に陰りを作って、暗くなり始めた空を睨め付けた。




