御祭 -アラタガミ- 参
◇ ◇ ◇
「いっただきまーす」
男女の重なる声。供助達は手を合わせて、本日の夕飯タイム。
一般来場者用に設置された簡易テントの休憩場所で、パイプ椅子に座って長テーブルを挟み、各々が箸を持つ。
「あたし等はカンパーイってな!」
「カンパーイだのぅ!」
そして、大人組の南と猫又は新たに買ってきたお酒の缶を小突き合う。
太一達もいただきますを合図に少し早めの夕食を始めた。
「いやー、祭りの屋台を前にすると財布の紐も緩んじゃうよなぁ」
「何言ってんだ、太一。半分は俺が奢ってやったんだろ」
「にしても悠一が支払いが細い小銭ばっか使って、屋台のオッチャン達が地味に困ってただろ」
「小銭貯金してたんだよ。細かくても金は金だろ」
「まぁそうだけどさ。んじゃ、ありがたく頂きまーす」
太一は買ってきた焼き鳥を頬張り、それに対して悠一は渋い顔で返した。
何だかんだで気付けば結構な量を買っていて、悠一の財布が予想以上に軽くなってしまったのだ。
「私、久々にベビーカステラ食べたけど美味しいね」
「和歌ちゃん、ちょっと頂戴。私のチョコバナナ一口あげるから」
しかしまぁ、隣で和歌と楽しそうにしている結花を見れば、それなら安い出費だったと思える。
悠一は祭りに来て良かったと、安心の気持ちと共に口元を緩めた。
「っかー! やっぱ値段が少し張るだけあって牛串はうめぇな! それにビールに合う!」
「うーむ、お好み焼きとタコ焼きで粉物が被ってしまったのぅ」
和歌と結花、二人の対面には猫又と南。買ってきた食べ物をつまみに酒盛りをおっ始めている。
味の濃い物を口に運び、銀色のビール缶を煽る。本当に美味そうに飲み食いしている姿は、見ている側も腹が減ってくる。
「これで五百円か……やっぱ高ぇよな、祭りの食いモンってよ」
「そういう事を言うのは野暮だよ、供助君。祭りの雰囲気を楽しんでると思って割り切らないと」
「そういうもんかねぇ」
供助は特別美味しい訳でもない、中途半端にパサパサしている焼きそばをすする。
そんな供助に、フライドポテトを食べながら苦笑いで答える祥太郎。
各々が食べたい物を食べながら、祭りの空気を楽しんでいた。
「そういえば結花ちゃん、屋台を回っていた時に思ったんだけど」
「なに?」
「屋台の暖簾とか、吊るされた提灯の紐とか。色んな所に折り紙が飾られているのって理由があるの?」
和歌が話しながら辺りを見ると、パイプテントの天幕や近くの木枝にも七夕みたく飾られている。
形は鶴や金魚、うちわ、法被、提灯と様々に折られている。至る所に折り紙が吊るされていた。
一般的な祭りではこんなに折り紙を飾る事は無く、珍しくて和歌は気になっていたのだ。
「あれは祭りの神事に関係しているの」
「神事って、祭りで行う儀式みたいなものだっけ?」
「うん。祭りは昨日から三日間行われるんだけど、この辺りは神様が修行に来る場所って昔から言われているの」
「へぇ、神様も修行するんだ」
「神様って言っても、神様に成り立ての新米の神様でね。人間で言う新社会人みたいなものかな」
「昔から八百万の神様って言うもんね。それだけの数の神様が居れば、新人の神様が居ても不思議じゃないのか」
日本では八百万の神……多くの神様が存在すると言われている。八百万というは正式な数ではなく、あくまで数が多いという意味での総称である。
他にも八十万の神、千万の神など他の言い方が存在する。どれも大きな数を現す漢字を当てられており、日本の神行と関心の深さの表されている。
「私達の街では新しい神を新神と呼んでいて、一年に一回の祭りでこの神社に新しい神様を迎え入れるの。そして、迎え入れられた新神はここで神様の仕事をして精進していくって言われてるわ」
「年に一回の祭りって言う事は、来年になったらまた新しく来た神様と入れ替わりになるのね」
「そう。それで、ここで一年間修行した神様は次の修行場所を探しに出て、また新しく生まれた新神を迎えるの」
「祭りの由来は分かったけど、じゃあ折り紙の関係はなんなの?」
この祭りの神事は説明で理解できたが、最初の質問であった折り紙の理由にはなっていない。
和歌は微風で揺れる天幕の折り紙を眺めて、再度結花に問う。
「それは恐らく、簡略化された祈祷の一種だろうの」
「祈祷の一種……?」
空になった缶ビールをカツンと置いて、猫又が話の間に入ってきた。




