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      御祭 -アラタガミ- 弐

「合流できたし、さっそく祭りに行くか。腹も減ったしさ」

「そうだな。今の時間なら混む前だから、歩いて回るには丁度良いと思う」


 太一と悠一が先を歩いて、神社の境内に繋がっている階段を登っていく。

 段差を上がっていくにつれ、段々と賑やかな音が近付いてくる。


「ほう、なかなか広いではないか。鳥居も結構な大きさであったから予想はしていたが、ここはそれなりに格式高い神社のようだの」


 階段を登りきって境内に出ると、関門の下には対に見合う二つの狛犬に、参道には石造りの灯篭が並ぶ。

 鳥居を潜る前とは明らかに空気が違う。清らかで澄んでいると言えばいいか。猫又は境内に感じる透明感に感心していた。

 広さもサッカーのグラウンドと同じくらいはありそうな勢いで、所狭しと出店も並んでいる。


「ホントだな。あたしもここまでデケェ神社とは思って無かったぜ。ちっとばっかし驚きだ」

「神社がこれだけの大きさ。祭りも相応の規模のようだの。これは色々と期待出来るのぅ」

「ところで猫又サン、アンタ妖怪だろ? こういう神聖な所に来ても害は無ぇのか?」

「今のところは全くもって無いの。例外無く弾かれる所もあるが、ここは善悪の識別がしっかりされてるようだの」


 体に何も異変が無い事を確認する猫又。

 神社のような神聖な場所では、対極に位置する妖怪のという存在は異物と認識されてしまう時がある。

 その場合は体が重くなったり頭が痛くなる事があるが、ここでは特に問題はなかった。


「そういう訳で思いっ切り祭りを楽しめる。南、何か食べ物を買いに行こうではないか!」

「おう、焼き鳥食おうぜ、焼き鳥」

「今日は供助から小遣いを貰ったからの! 食ったるのぅ!」


 祭りの雰囲気とアルコールに当てられて。猫又と南は高めのテンションで多く並ぶ出店へと向かっていった。

 酒を飲みながら鳥居を潜ってゲップもする妖怪を弾き出さないとは、ここの神社の神様はなんとも寛大である。


「じゃ私達も行こっか。結花ちゃん、何食べる?」

「私は甘い物が食べたいな。りんご飴とか」

「りんご飴いいねぇ! 私も食べたい!」


 きゃっきゃワイワイと、女組はかしましく祭りを堪能しに行く。

 その背中を眺めて、残った野郎共も後を追っていく。


「祭りに付き合ってもらって悪いな、太一。祥太郎と供助も」

「いいっていいって。俺、祭り好きだしさ」

「あいつ、姪が行方不明になってからずっと気に病んでいたからさ。気分転換させたかったんだ」

「結花ちゃん、少しでも元気になればいいけどな」


 太一と会話しながら、少し先を歩く結花の背中を心配そうに見つめる悠一。

 いつもと違う人と遊べば気が紛れるんじゃないかと思い、初対面で同年代の太一達を誘ったのだった。

 その効果はいくらかあったようで、祭りを歩く結花の表情は初めて会った時より緩やかになっている。


「ま、結花ちゃんだけじゃなく、お前も気分転換しないとな」

「……そうだな。太一の言う通りだ」


 悠一はゆっくり息を吐き出して、張っていた気を解すように肩を竦めた。

 結花をフォローしなきゃいけない自分が先に参ってしまっては格好付かない。悠一は知らぬ間に自分も気を張り過ぎていたと気付かされた。


「なぁ、どうでもいいから俺等も何か買いに行かねぇか? 腹減った」

「供助君、どうでもいいなんて言っちゃダメだよ! 悠一さんは結花さんを心配して……」

「いや、いいんだ祥太郎。正直、こんな他人の問題なんて興味すら持たないのが普通だからな」


 供助は心底興味が無いと背中を丸めて怠そうにしていた。それを祥太郎が咎めるも、そんなのは関係無いと態度は変えず。

 悠一と結花とは初対面で義理も無ければ得も無い。ならば付き合う必要も無いと。

 太一達がお節介を出さなければ、こうして祭りに来る事も無かっただろう。


「お詫びに何か奢らせてくれ」

「え? 悪いよ。僕達の事は気にしなくていいよ」

「せめてもの俺からの気持ちだ。そっちこそ気にせず奢られてくれよ」

「でも……」


 別に何かをしてあげた訳でもないのに奢ってもらうのは悪い気がして、祥太郎は言葉を詰まらせた。


「こういうのはこっちの気持ちより、相手の気持ちを優先してやるもんだ。ここは素直に奢られてやろうぜ、祥太郎」

「太一君……わかった。じゃご馳走になります」

「おう。でも、なるべく高いのはやめてくれな?」


 目立つよう明るい配色で作られた暖簾や旗を掛けた屋台がいくつも並び、甘い匂いから香ばしい匂いまで。

 食欲をそそる香りが鼻腔をくすぐる。女性達陣に遅れて、供助達も少し早い夕飯を仕入れに足を動かした。


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