第八十四話 御祭 -アラタガミ- 壱
「昼間はあんま人を見掛けなかったけど、祭りとなると結構居るもんだなぁ」
結花に誘われた祭りに向かうべく、太一を先頭に供助一行は開催場所の神社を目指していた。
歩道を歩きながら周りを見ると、ちらほらと浴衣姿の人が目に入る。昼間に行った浜辺と違って街に近いのもあり、人気も多い。
時刻は五時過ぎの夕方。まだ陽が落ちる前で暗くはないが、電柱と電柱の間に吊るされた提灯が点灯され始めていた。
「浴衣を着てる人いっぱい居るなぁ。今年は一度も着れなかったや」
「そんなに良いモンかぁ? あたしは遠慮してぇな」
「南さんは浴衣は好きじゃないんですか?」
「好んで着る事ぁねぇな。動きづれぇし、腹は締められて苦しいし、下駄は足痛くなるし。何より商売道具を隠し持てねぇ」
すれ違う浴衣姿の人達を軽く目で追い、羨ましそうにする和歌。
対して、南は普段着が一番だと鼻を鳴らす。祭りだからっていちいち着替えるまでもないと。
「あ、でも古々乃木先輩が見たいってなら着まスよ! 見たいッスか!?」
「別に。あと腕を組んでくんじゃねぇよ、酒臭ぇ」
「なーに言ってるんスか、まだチューハイ一本目ッスよ? 酒臭くなる程の量はまだ飲んで無いッスって」
供助が鬱陶しそうにしているのも気にせず、上機嫌に絡んでくる南。
道中のコンビニでロング缶のストロングなチューハイを購入し、一杯……ならぬ一本を既に引っ掛けていた。
「やめておくんだの、南。ここに和服を着こなす美人が居るでな。浴衣姿で並んで歩いては霞んでしまうの」
「和服を? 着こなす? 美人? おい猫又、どこに居んだそんな奴」
「何を言っておる、供助。ここに居るではないか、ここに。ほらここ。目の前」
「俺の目の前にはハイボール缶を片手にアメリカンドック食ってるオッサンしか見えねぇんだが」
「誰がオッサンか! こんなカワユイ女の子がオッサンな訳ゲェップ……」
「公共の場で恥ずかしげもなくゲップしてる奴をカワユイとは言わねぇ」
アルコールに加えて祭りの雰囲気も相まってか、テンションの高い二人。早くも供助は面倒臭くなってきた。
「あ、あそこ。鳥居の前に悠一さんと結花さんが居るよ」
待ち合わせしていた人を一番に見付けたのは祥太郎。
それを聞いて、一同は少し先に見える赤い鳥居へと目を向ける。
「よー、悠一。約束の時間前なのに早いな」
「こっちから誘っといて遅れるのは悪いからな」
待ち合わせ場所である神社の鳥居に着くと、甚平姿の悠一と浴衣に着替えた結花がいた。
あまり人に見られるのは得意じゃないのか。結花は横髪を指で耳に掛けて、少し気恥かしそうにしている。
「わぁ! 結花ちゃんの浴衣、とても似合ってるよ!」
「そ、そうかな……ありがとう、和歌ちゃん」
「いいなぁ、私も浴衣着たかったなぁ」
「和歌ちゃんは浴衣、持ってないの?」
「家にはあるんだけどね。今年はあまり着る機会がなくて……」
同じ女で同い年。趣味趣向が近しいものがあるのか、二人は今日知り合ったばかりなのに仲良く話をしている。
「ふむ。確かに似合っておるが、やはり私には適わゲッファァ」
「そのくだりはもういいって、猫又サン。よくそんな屁みてぇなゲップ出んな」
対してこっちの女組は女っ気が無い事無い事。ゲップとか屁とか平気に口にする。
猫又も猫又なら、南も南である。アルコールインストールするとモラルが欠如してしまうのだろうか。




