相談 ‐カミカクシ‐ 弐
「見えるか?」
「え?」
「ここに居る俺等が霊能力者だか霊媒師によ」
「それ、は……」
供助の返しに、結花は言葉を詰まらせる。
当然だ。面子は見た目が変わってる者も居るが、それだけで他は至って普通の旅行に来た人でしかない。
自分から言い出したにしても、結花自身も供助の返答に何も返せなかった。
「でも、太一からあの有名な幽霊ペンションに泊まってるって聞いた。あそこ、地元じゃ有名な心霊スポットなんだけど……泊まってて何も起きなかったのか?」
口が止まってしまった結花に代わり、次は悠一が話してきた。
霊能力者や霊媒師云々とは別で、純粋な疑問だった。
「いや、特には。なぁ南?」
「そッスね。あたし等が昨日一泊した時は特に何もなかったッスね」
供助はわざとらしく南に話を振り、南はそれにわざとらしく乗っかる。
同じ払い屋という立場を理解する者として、打ち合わせをせずとも目線だけで話を合わせるのは難しい事ではない。
そうそう表には出て来ない払い屋という職業。バカ正直にハイそうですと言う訳にも行かず、二人は無関係を演じた。
「そう、か。じゃあペンションの持ち主がお祓いしたとか言ってなかったか?」
「悪ぃが、俺等はたまたま格安だった宿を見付けて遊びに来ただけだ。元は心霊スポットってのは聞いてたけど、それをお祓いしたかってのは全く分からねぇな」
「そーそ。あたし等は観光しに来ただけ。そういう事を知りてぇならオーナーに聞いた方が早いんじゃねぇか?」
と言う南であったが、払い屋について口外しないという約束がある以上、オーナーが口を割る事は無いと分かっていての発言であった。
こういった手合いにいちいち付き合っていたらキリが無い。大体の場合は興味や好奇心からの、野次馬根性だったりする。軽く流すのが一番の対応なのだ。
「そうですか……」
「せっかく旅行に来ていたのに、変な事を聞いて気分を悪くしてしまった。ごめんな」
結花は視線と肩を落とし、明確な落胆の様子を見せた。
そこに悠一が優しく結花の肩に手を添えて、供助達に頭を下げて謝罪する。
「何か訳ありの様子だのぅ。力になれるかは解らんが、話せば楽になる事もある。言うだけタダという言葉もあるしの。私で良ければ話を聞くぞ?」
名残惜しそうにフランクフルトの最後の一口を飲み込んで、今まで黙っていた猫又が口を開いた。
いや、フランクフルトを食べる度に口は開けてはいたが。言葉を発する的な意味で。
「おい猫又、要らねぇ事を聞くんじゃねぇよ」
「良いではないか。私達が払い屋だとバレなければ良いのだろう? いかにも普通の観光客にしか見えん私等に、それでも縋る様に話を聞きに来たのだ。何か理由があるのであろう」
要らぬお節介が厄介事になる可能性もある。供助は隣に居た猫又の横腹を肘で小突くも、まったく気にする背ぶりを見せない。
「……実は、最近この街でおかしな事が起こってて」
「ほう、おかしな事とな?」
話し始めた悠一を見て、供助は額に手を当てて項垂れた。
対して猫又は多少興味ありげに話に耳を傾ける。もちろん、本来の猫耳は妖気で隠してある。
「小さな子供が行方不明に……神隠しにあっているんだ」
「神隠しとはまた今の時代には似合わない言葉が出て来たのぅ」
「俺もそう思う。けど、一週間ですでに四人の子供が姿を消してるんだ。それも何の手掛かりもなく」
「その子供というのは? 悠一くらいの歳であればプチ家出の可能性もありそうだが」
「いや、それが全員ほんの二、三歳の子供なんだ。自分の意思でどこかに居なくなるなんて有り得ない」
悠一は表情は曇り掛かり、結花へと向ける視線は悲痛のこもった眼差しだった。




