再度 ‐デジャヴ‐ 参
「そうだ、ちょっといいっすか?」
「あぁ? なんだよ、まだ……」
「いや、あんたじゃなくて、もう一人の方なんだけど」
供助はのそのそと歩いて、もう一人の金髪の方へと近付いて行く。
「どっすか、暇なら俺と一緒に遊びません?」
「あぁ? 何言っ……い、て、いでででで!」
言って、供助は男の首に片腕を回して強く締める。
まぁ当然、一緒にいたもう片方の男は連れが絡まれて怒り始める訳で。
「テメェ! 何しやがんだ、離せや!」
「あれ、なんすか? あんた、この男の彼氏っすか?」
「んな訳ねぇだろうが! 舐めてんのか!?」
「じゃ黙ってろよ。こっちは大事な話してんだ」
「ダチがやられてんのに黙ってる訳ねぇだろうが!」
供助の馬鹿力にどうも出来ず苦しんでいる金髪を助けようと、茶髪の男は供助へと握り拳を振りかぶる。
が、しかし。供助は殴られるよりも先に。茶髪男の顎を空いていた左手で鷲掴みした。
「あがっ……!?」
「そうだよなぁ。アンタの言う通りだよなぁ?」
そして、左手の力を徐々に強めていく。
ぎりぎり、きりきり、ぎちぎち。骨が軋む音が男の耳に広がっていく。
「――――ダチが困ってんのに黙ってる訳ねぇだろ」
低く、怒りを孕んだ声。供助は鋭い眼光で茶髪の男を睨み刺す。
金髪の男の首から右腕を離し、左手を振り払うと茶髪の男は地面に尻餅を突いた。
払い屋として幾つもの依頼を熟し、人外との戦闘を乗り越えてきた供助。その凄みに、男二人は何も言い返す事が出来ず。
そして、さらに追い討ちをかけるように。
「そんなに女と遊びてぇなら、あたしが付き合ってやろうか?」
へたり込む男の後ろから、一人の女が声を掛けて屈み込む。
「ヤケドじゃ済まねぇ覚悟があんならの話だけどな」
ギラリと。男二人を睨めつけるは南。
供助以上の眼力で、三白眼がさらにそれを増強させる。雑魚妖怪でも裸で逃げ出すほどの威圧感。
「ひぃぃぃぃぃぃ!?」
「結構ですぅぅぅぅ!」
抜けていた腰は何処へやら。男二人は情けない声を上げて去っていった。全速力で。
「ったく、どこにでも半端なナンパ野郎はいんだな」
南は立ち上がり、呆れを込めた溜め息を一つ。
ガンを飛ばさず黙っていれば美人の部類に入る南。こういう手合いの対処方には慣れていた。
「あ、ありがとう。供助君、南さん」
「いーって事よ。ああいう輩には強めに言ってやんねぇとしつこいからよ」
礼を言う和歌に対し、南はニッカリと八重歯を見せて笑う。
「つーかよ、お前はあんなのにいつも絡まれてんな」
豆粒くらいになった男二人の後ろ姿を見送って、供助は少し呆れながら和歌に言った。
「わ、私だって好きで絡まれてるんじゃないんだから!」
「いや、それは分かってんだけどよ。なんかそういうのを引き付ける何かが出てんのか?」
過去に夜の駅で男に絡まれ、文化祭でも同じ男に絡まれ。さらには今しがた絡まれた。
普段から真面目に生きて、さっきみたいな軟派は苦手な和歌からしたら迷惑以外の何でも無い。
「んー? やっぱ胸じゃねぇか? 和歌のはとびっきりにデケェからな」
「ちょ、何言うんですか南さん!?」
「いや、男ってのはまず容姿から見てくるからな。そこでやっぱ胸は必ず見てくる訳よ。女のあたしから見てもその胸には目ェ行くしな」
顎に手をやりながら、改めてマジマジと和歌の胸を眺める南。
着ているパーカーの上からでも見て分かる大きさ。撓わなる二つの果実。
いきなり自分の胸を話題にされて、和歌は思わず両手で胸部を隠す。
「いや、そんな事よりあと二人はどうしたんだ? 一緒だったんだろ?」
「そんな事!?」
自分の胸の話を振られたら振られたで嫌だが、興味が無いと一蹴されるのも複雑である。
「田辺君と大森君は近くの自販機で飲み物買ってくるって。供助君達とここの浜辺での待ち合わせだったから、私は行かないで待ってたんだけど……」
「そこでさっきの奴等に絡まれた訳だ」
「……訳です」
別に和歌が悪い訳では無いのだが、申し訳なさそうにシュンとする。
「あとそれと、少し面倒な事になっちゃって……」
「あん? なんだよ、面倒な事って」
和歌は少し歯切れが悪そうに、シュンとした体勢から上目遣いで供助を見る。
なんだか面倒な予感がすると、供助の勘が言っている。
「あ、古々乃木先輩。太一達が戻って来たッスよ。ほら」
「とりあえずアイツ等が揃ってから話を聞……」
南に視線を向ける方向へと、供助も目を向けると。
「……なんか人数多くねぇか?」
太一と祥太郎の二人……のはずが、倍の数に増えていた。




