第十話 探者 嵌 ‐サガシモノ カン‐ 壱
「な、なんで俺の家なんですか!?」
供助は声を荒げ、思わず膝で立ち上がる。
『いやだってさ、それが一番都合が良いんだもの』
「どこがです!?」
『あれ? 話、聞いてたよね?』
「聞いてましたよ! 猫又を保護しつつ囮にするって話ですよね!?」
『そうそう、そーよ。ちゃんと聞いてるじゃない』
「だから! なんで! それが! 俺の家になるんですか!?」
テーブルの携帯電話に顔を近付け、納得も理解も出来ない供助。
猫又と横田の会話はしっかり聞いていたが、自分の家に住むなんて思ってもいなかったし、なるとも考えていない。
そもそも、供助の家に住むような話の流れではなかった筈だ。
『ほらぁ、護衛も一人付けるって言っちゃったさ。その人も住める所の方がいいでしょ?』
「だったらそっちでホテルを手配するなり、マンションを借りるなりすりゃいいじゃないですか!」
『いやはや、こっちも予算に余裕ある訳じゃないからねぇ。削れる所は削りたいのよ』
「だからって俺の家にしないで下さいよ!」
『まぁまぁ落ち着いて頂戴よ。予算云々もそうだけど、ちゃあんとした理由もあーるんだから』
「……なんです? その理由ってのは」
まだ納得出来ないが、とりあえず話を聞こうと供助は声のトーンを下げた。
一応上司でもあるし、横田は頭が切れるのも知っている。何かしらの考えや作戦があるのかと、腰を畳に戻そうとする。
―――――が。
『供助君も年頃だし、妖怪でも女性と同居出来るのは嬉しいだろうと思ってさ。一人暮らしは寂しいでしょ?』
「切りますね」
供助は真面目に聞こうとした自分に反省して、人差し指を通話終了ボタンへと伸ばす。
『じょーだん、冗談だってば』
「ふざけてないで早く教えてください」
『まぁ、今言った経費削減が一つ。あとは人喰いが現れた場合、供助君なら俺に直接連絡取れるでしょ』
「俺が、ですか……奴を目の前にしたら、感情を抑えられずに突っ走って殴り掛かってそうですけど」
『そうかい? 人喰いの恐ろしさを知っているからこそ、無理はしないと思うけどね。それに目撃した事がある供助君なら、即座に本物かどうか判断出来るだろうし』
「さっきは簡単に熱くなったのに、ですか?」
『さっきは簡単に熱くなったのに、だね』
数秒、間が空く。携帯電話からの声も途切れ、部屋に聞こえるのは外の雨音。
吐き出すように息を吐き、片手で髪を掻き上げ。供助はどっかりと座る。
「……まぁ、理解はした。それなりに納得出来ます」
『それなり、ってのはまた微妙な言い方だね』
「けど、それとこれとは話は別ですよ。まだ猫又だけならともかく、さらにもう一人なんて勘弁してください」
『んー?』
「確かに無駄に広くて部屋ぁ余ってるけどよ、俺ん家は貸家じゃあねぇんだ。ほいほい住人を増やす気は無ぇです」




