飲会 ‐ジョシパ‐ 肆
開けた缶ビールのペルタブの音が、妙に悲しみを帯びて。
南はそれを消し去るようにビールを大きく煽った。
「ずっと気になっておったのだが……南と供助はどういった経緯で知り合ったのかの?」
「ん? あたしと古々乃木先輩?」
猫又の言葉に反応し、南は唇から缶ビールを離す。
「うむ。年上である南が年下の供助を先輩と呼び、敬い慕っておる。正直言って興味がある。のう、和歌?」
「うえっ!? 私に振るんですか!? いえ、まぁ、その……私も気にはなってましたけど」
いきなり賛同を求められ、油断していて慌てる和歌。
しかし、自分も興味があった事は否定できず。和歌は肩を丸めて目を逸らしながらも、猫又の振りに乗っかった。
「話してもいいけどよ、そんな面白ぇモンじゃねぇと思うぞ?」
「いやいや、私からすればこれ以上無い酒の肴だと思うがの。あの唐変木な供助がこんなにも慕われとるのだ、何か一悶着あったのだろう?」
「まー別にそっちがいいならいいンだけどよ。つっても、話すったってどっから話せばいいんだか……」
南は後頭部を軽く掻きながら、困り顔で天井を仰ぐ。
昔話をする分には構わないのだが、いかんせん自分が話し上手ではない事は自負している。いざ話すとなると、どこからどう話せばいいのか舌が止まってしまう。
と、南が考えている所に。トントン。そんな音が部屋の引き戸から聞こえてきた。
「すんませーん。女子会のところ悪いんすけど、ちょっといいっすかー?」
「む? この声は太一か。ちょっと待っとれ。今開ける」
向こうから聞こえてきたのは太一の声。
戸から一番近くにいた猫又がベッドから降りて、戸を開けると太一と祥太郎の二人が居た。
「どうした? そっちはそっちで男子会をしとったのだろう?」
「いやそれがですね……風呂から上がったら、供助の奴がさっさと寝ちまいやがって」
「むぅ、供助は昨日からほとんど起きっぱなしだったからのぅ。流石に限界だったか」
「せっかくの旅行だってのに、祥太郎と二人で何かするってのもいつもと変わらないし……」
「なるほど。ならば私達の所に混ぜて貰おうと思った訳か」
「思った訳です」
「しかしのう、ここは女子会という秘密の花園。獣の化身である男が入っていい領域では……」
「俺達が夜食で食おうと思って買っといた菓子やカップ麺持ってきたんすけど」
「入れ! 今をもってお前達も女子だの!」
食べ物であっさりと懐柔される猫又。というか獣の化身はお前だ。
「女子だけで楽しんでいたのにごめんね。南さん、鈴木さん」
「気にすんなよ、祥太郎。飲み会ってのは人数多いほど楽しいしな」
「うん、南さんの言う通り気にしないで。供助君が寝ちゃったのは残念だけど」
お菓子が入った袋を両手に持って、申し訳なさそうに入室する祥太郎。女性だけしかいない部屋に入るのに少し緊張している、というのもあるが。
対して太一はどっかりと床に座り込み、持ってきた自身の飲み物のキャップを開けて飲み始めた。元々友達が多い太一は、こうした女子が多い集まりも珍しくなく慣れた雰囲気。
祥太郎と違って既にリラックスしてお菓子まで開け始めた。
「んで、なんの話をしてたんすか?」
「や、実はの、太一。南と供助がどうやって知り合ったのかを聞いていた所での」
「あ、それ俺も聞きたい」
「僕も気になってた。供助君と南さんが知り合った切っ掛け」
祥太郎も太一の隣に腰を下ろし、さっきまで猫又達が話していた話題に興味を示す。
祥太郎にとっては供助と南、両方と知り合だった。その二人がどうやって知り合ったのかは特に気になっていただろう。
「んー、そうだな。んじゃまず、あたしが霊感に目覚めた切っ掛けから話すか――――」
旅行初日。秋を迎えて肌寒い夜。
若い払い屋の出会い話を肴に、旅の夜は深まっていく。




