飲会 ‐ジョシパ‐ 参
霊能力者。そして、払い屋として最も重要である部分。
霊を視る。霊を触る。霊を倒す。何をするにも霊力が要る。言わばスマホの電池みたいなもの。
電池の総量が少なければ、当然スマホの活動時間も短くなる。南はその電池容量が酷く少ないのだ
「霊力が少ない、か……そういえば南が除霊を行う際、道具を使用していてあまり霊力を消費しておらんかったの」
「使える霊力が少ねぇからな、随時霊力を消費する霊具はあたしにゃ向かねぇんだ。無駄遣い出来るほど裕福じゃねぇんだよ」
自嘲と自虐。しかし、悲観的ではなく。
南は己の欠点を受け止め、受け入れ、その上で払い屋として生きている。
中途半端な意思で怪異と対峙すれば、意志の脆弱さ。心の隙間につけ込まれてしまう。
だから南は落ち込まない。へこたれない。悩みはしても、改善と解決を探していく。欠点があっても他の方法で補っていく。
それが南が見付けた方法で、決めた生き方。
「でも、南さんって霊感があって幽霊や妖怪が見えるんですよね? それだけで払い屋として才能があるって事じゃないんですか?」
「霊感ってぇのはあくまで“霊を感じ取る力”であって、霊を祓う力じゃねぇ」
「じゃあ、その霊を祓う力って言うのは?」
「それがあたしに不足している霊気、または霊力ってヤツだ。例えるな車でいうガソリンみてぇなもんだな。その霊力を貯蔵できるタンクがあたしは小さくて、すぐにガス欠になっちまう。って言やぁ解りやすいか」
「てっきり霊感があれば霊を祓えるんだと思ってましたけど……違うんですね」
「あくまで霊感は文字通り霊を感じるもの。霊感の有無と除霊が出来るかどうかは別ってぇこった」
和歌に答えて、南はビールを一気に煽って胃へ流し込む。
南が言った通り、霊感があるからといって霊や妖を祓える訳では無い。祓うには祓う為の相応の力が必要なのだ。
それに世の中には霊感が無くとも霊を祓う者も居る。身近なので言えば神主などがその例だ。
霊感も霊力も強くない神主でもお祓いなどを行っている。それは法力という、霊力とはまた別な力を使っているのだ。
「にしても、南さんが使う道具って沢山ありますよね。そのリュックの中は全部そうなんですか?」
「ん? ああ、こん中のは全部商売道具だ。持ち過ぎると動きが鈍くなっから、依頼に応じていくつか選んで持ってくんだ」
「でも、さっきここで除霊をした時、南さんは手ブラでしたよね?」
「あれは服の中に隠し持ってんだ。スカジャンの裏側やパーカーのポケットとか、あとは服の袖に仕込んだりとかな」
「釘にナイフ、ヨーヨー……わ、スタンガンまである」
「他に催涙スプレーなんかもあるぜ。ここに居た霊には実体があるか怪しかったから使わなかったが、目鼻がある妖怪相手にゃ結構効果ある。例えば、猫又サンみてぇな奴とかな」
リュックから次々と商売道具が出されて、ベッドのシーツの上が狭くなっていく。
結構な種類の物が出てきたが、それでもまだリュックの半分は膨らみが残っている。
空になった缶を床に置いて、次のビールをテーブルから取る南。
「石に霊力を込めてあるからそのままでも使えるけど、使用する際に霊力を流し込めば呼応して効果が上がる。こうして少しでもあたしの欠点を補わねぇとやってけねぇのが辛ぇとこだ」
「凄いですね、色々な道具をこんなに使えるなんて。それも自分用に手を加えて」
「凄かねぇよ、この道で生きてく為に仕方なくだ。それに本当はあたしも古々乃木先輩のような戦い方に憧れてたんだけどよ。元々空手を習ってたし、なにより……霊や妖に身ィ一つで戦う姿が、心からカッケェと思ったんだ」
思い出すは少し前の過去。供助と出会い、知り合いとなった切っ掛け。
あの時の衝撃は今でも忘れられず、鮮明に覚えている。人間とは異なる存在を、その身一つで圧倒する姿を。
「けど、あたしにゃそれは無理だった」
開けた缶ビールのプルタブの音が、妙に悲しみを帯びて。
南はそれを消し去るようにビールを大きく煽った。




