飲会 ‐ジョシパ‐ 弐
「っかー! 温泉の後の酒は格別だのぅ!」
「くぅぅぅ、染みるぅ! 堪んねぇなぁ!」
「二人共、本当おいしそうに飲みますね」
和歌は未成年で酒の味をまだ知らないが、二人の表情と飲みっぷりを見るととても美味しそうに見える。
まぁ風呂上りで火照った体に冷たい飲み物はアルコールでなくても美味しい。入浴で汗をかいたのもあって、和歌もジュース缶の半分を既に飲んでいた。
「酒は百薬の長って言うだろ? 体に良いモンを飲みゃ体も喜ぶってな」
「酒は万病の元、とも言うがの。まぁ適度に美味しく楽しく飲めば、長生きの秘訣にもなる」
「うーん、私はまだ飲めないからお酒の良さが分からないけど……」
「和歌が二十歳になった時は一緒に飲もうではないか。美味い酒を教えてやるの」
「そん時ゃ奢ってやるよ。今日みたいな安酒じゃなく高ぇのをさ」
「はい、楽しみにしてます」
和歌はこの場で飲めない事に少しの寂しさを感じながらも、その日が来る事への楽しみの方が大きさに笑みを零した。
「っと、おっ始めた所で悪ぃけど、ちょいと飲みながら作業させてもらうな」
「作業ですか?」
「余裕ある内にやっとかなきゃなんねぇ事があんだよ、あたしにはさ」
南は前もってベッド下に置いておいた自分のリュックから、商売道具をいくつか取り出した。
釘、警棒、スタンガン。それらを白いシーツの上に並べ置く。
「商売道具を並べて何をするのかの?」
「依頼で使った分は補充しとかないといけねぇんだよ」
「補充? 数ある釘やスタンガンの電力ならば分かるが、警棒も補充とな?」
「あたしが言ってる補充ってのは道具の数じゃなくて、質の話さ。ほら、ここを見てみな」
「む?」
南が手に持って差し出してきたのは警棒。そして、その警棒の柄尻を猫又へと向けて見せてきた。
気になって和歌も一緒に覗き込む。
「なんか綺麗な石が付いてますね……宝石、かな?」
「いんや、ただの石だ。と言っても、宝石とまではいかねぇが結構な値がする代物だけどな」
「じゃあ、補充するって言うのは道具じゃなくてその石なんですか?」
「この石じゃなく、正しくは石の“中身”だな」
「中身?」
いまいち意味が理解できず、和歌は微かに頭を斜めにする。
「なるほどの。それは畜霊石か」
「さすが猫又サン、知ってたか」
「うむ。実際に目にするのは数えるくらいしか無いがの」
ぐびりと、猫又はビールを喉に流し込む。
綺麗に光る透明な石。それは蓄霊石と呼ばれる代物で、名前の通り霊力を込めると蓄積する事が出来る珍しい石である。
「それで、その蓄霊石って言うのは?」
「そのまんまだ。この石には霊気を溜める事が出来て、あたしは自分の霊気を溜めた蓄霊石を商売道具に付けてんだ」
「あ、だから市販の道具なのに霊に効果があるんですね」
「そういうこった。だから、霊力に余裕がある時にはこうして使用した道具には霊気の補充が必要なんだよ。いちいち依頼が終わる度にってのは面倒だけど、金を稼ぐ為にはそうも言ってらんねぇわな」
「払い屋って色々と大変なんですね」
「ま、大変っても道具を使う商売じゃ皆そうだろ。和歌だって料理をする以上、調理道具の手入れはするだろ?」
「そうですね、週に一回はするかな」
「それと同じだ。良い仕事をするには手間は惜しまねぇ」
南はビール缶を片手に、右手に蓄霊石を握って霊気を込める。すると、握られた手中から微かに光が発し始めた。
それを和歌は不思議そうに眺め、猫又はツマミのカルパスを包み紙から取り出して口に放り込む。
この発光が霊気が貯蓄されている証で、発光が無くなれば貯蓄できる限界まで達した事になる。
「しかし、こうして依頼毎に石へ霊力を注がねばならんのなら、初めから霊具を使えばよかろう。なぜわざわざこの様な方法を取っているのかの?」
「あたしだって出来りゃ手間が掛かる事はしたくねぇが、それが出来ねぇ理由があんだよ」
「理由?」
「霊の姿が見える。霊の声が聞こえる。霊に触れる。霊感あって、除霊も出来る。けど、あたしには欠点があってさ」
猫又の問いに答え、光が消えた左手の石を一瞥して。
そして、ビールを流し込んで喉を数回鳴らしてから、一息吐いて続ける。
「霊力が少ない。払い屋としては致命的な欠点だ」




