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第七十七話 条件 -クチドメ- 壱

「どへぇー、ようやっと着いたのーぅ」

「座りすぎてケツいってぇ」


 駅の出入り口から出てくるは、疲れきった表情で肩を落としまくる猫又と南。

 電車を二度乗り継いで揺られる事、二時間半。最初はテンションアゲアゲで気持ち浮き立っていた二人だったが、長時間の着座に大人しくなっていった。

 目的地の最寄駅に着いた時にはこの通り。疲弊しきって腰を曲げて歩いている。

 その後ろに続いて、供助や太一、祥太郎、和歌も駅街へと出て来た。


「確かに移動時間が長くて、私も少しお尻が痛い……」

「僕もだよ。座りっぱなしって結構キツイよね」


 和歌は着替えなどが入った大きなカバンを肩にかけ直して苦笑する。

 それに対して隣に居た祥太郎も腰の辺りを擦りながら、少しずれていた眼鏡を整えた。


「で、供助。ペンションとやらはここからどれ位なんだ? 俺も流石に疲れたぞ……」

「確かオーナーが駅前に車で迎えに来てくれてる筈だから、それが最後の乗り物だ」

「まだ乗るのか……まぁゴールが見えたから気は楽だけどさ。その迎えの車ってのはどこに来てんだ?」

「あーっと、駅前から見えるところにフクロウの像があるから、その近くで止まって待ってるらしい」

「車種は?」

「灰色のバン」


 供助は太一に答えながら辺りを見回し、目印のフクロウの像と迎えの車を探す。

 すでに空は暗く夜を迎えたが、まだ八時になったばかり。駅前は色々な街灯で明るいが、昼間ほど明るくはない。明るさが疎らで見つけにくく、太一も一緒に探す。


「ところで供助、その今から乗る車の移動は目的地まで何分掛かるのかの?」

「横田さんから送られてきた案内では三、四十分だとよ」

「ひぃぃ、そんなに掛かるのかの!? それではお尻が二つに割れてしまう……」

「くだらねぇ事を言える元気があんなら大丈夫だ。一時間も掛かんねぇんだからまだマシだろ」


 ゲンナリしている猫又を見向きもせず、供助は欠伸を堪えてなかなか見つからないフクロウを探す。

 すると駅前から少し離れた右手側に、遠目ではフクロウかは分からないが、何やら銅像っぽい物が見えた。

 外灯が当たっていなくて色は見えにくいが、その銅像らしき物の近くに車が止まっているのも。


「多分あれか? 他にそれっぽいのねぇしな」

「んじゃ、あたしがひとっ走りして確認してくるッス!」

「いいのか? ケツいてぇって言ってたのに」

「少しでも体を動かして筋肉をほぐしたいッスから!」


 南は両手を大きく上げて背伸びしてから、パーカーのフードを揺らしながら小走りで向かっていった。


「ねぇ供助君、南さん一人で大丈夫かな? まだ遅い時間じゃないけど夜の街だし、皆で行った方が良かったんじゃ……」

「大丈夫だって。あいつは払い屋として化物と戦ってんだ、街のヤンキー程度どうって事ねぇよ。それに空手を習ってたしな、人間の相手は俺より上手ぇだろうよ」

「そうかもしれないけど」

「なにより、あの眼力だ。そうそう手ぇ出されねぇだろ」

「た、確かに……でも」

「ん?」

「迎えに来てくれたオーナーさんが怖がって逃げたりしない、よね?」

「……それは考えてなかった」


 横田から送られてきたメールでの情報では、オーナーは五十歳男性と書かれていた。

 南の鋭い眼力で見られてオーナーが怯え震えれば、傍から見れば親父狩りをしているように見えよう。

 最悪、不良に絡まれたと思ってオーナーがその場から逃げ去ってしまったならば、ペンションまでの足を失ってしまう。

 車で三、四十分の距離を徒歩。何時間かかるか分からない。下手すれば日付が変更しても着くかどうか。

 すでに長時間の移動で疲れている。それだけは避けなければ。絶対に避けなければ。


「しゃあねぇ、俺らも……」

「あ、南さんがこっちに手を振ってる」


 南単騎だと眼力による威圧感と夜の街というフィールド効果で恐怖心ドンッ!さらに倍!

 なので恐怖心を和らげようと全員で向かおうかと思った時。南がこっちを見て手を振ってきた。笑顔で。

 元々整った顔立ちをしている南。普段はアレだが、こうして笑えばモデル並みに可愛い。もう一度言うが、普段はアレだが。


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