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      対抗 -ミセアイ- 参

「珍しいですね、依頼完了の連絡後に反応があるなんて。しかも電話で」

『本当にね、自分でもそう思うよ。いつもならオネムの時間だしなぁ』

「もしかして、さっきのメールに何か不備がありました?」

『いやいや、そういう訳じゃないのよ。ちょっと急ぎの話があってね』

「急ぎの話? 依頼の追加すか?」

『そそ、依頼の話。今から追加って話じゃないから安心してちょうだいよ』

「まぁ、俺は稼げるからいいっすけど」


 とりあえずは今夜の依頼は無事終了。

 用が無くなったトンネルにいつまでも居る必要は無いので、供助は電話をしながら出口へと向かう。


「はぁ、まぁた依頼かの。そろそろ休みが欲しいのぅ」


 供助の会話だけを聞いて、なんとなく内容を察した猫又は渋い顔。さらに肩を落として大きな溜め息を吐いた。

 今週は月曜からずっと依頼が続き、明日は金曜。もし明日も依頼があるのなら、せめて土日くらいは休みたいところ。


「んで、依頼の話ってのは?」

『その前にちょいっと違う話があるんだけども』

「なんすか? 出来れば手短にお願いしたいんすけど」

『ままま、そう言わずに聞いてよ。いやほら、前に不巫怨口女の依頼で、君には私的で報酬っていうか褒美をあげたじゃない? でも、不巫怨口女の件で活躍してくれたのは君だけじゃないでしょ?』

「活躍……って、太一達の事すか?」

『そそ。経緯はどうであれ、彼等に助けられたのは確かだ。だから、彼等にもちゃんと報酬をと思ってね』


 突如として石燕高校を襲った異変。多くの人命が危険に晒された一夜。

 数百年前から存在していた妖怪、不巫怨口女。その凶源との激闘で、供助は何度も窮地に陥った。

 そして、相手の凶手に襲われ意識を失いかけた供助を救い出したのが、三人の友人達だった。

 太一、祥太郎、和歌。三人の協力がなければ、最終的な結果はどうであれ、不巫怨口女を祓う事は叶わなかったかもしれない。

 報酬も横取りされて利益どころか赤字の一件だったが、自身の部下を含めて誰一人と命を落とさずに済んだ事に。横田は彼等の助力には大きく感謝していたのだ。


『それでさっきの話に戻るんだけども、依頼は明日。でも、ちょっと遠くてね。移動費は全部出すし、宿泊場所は準備してあるから。手間が掛かるけどお願いしたいのよ』

「別にいいっすけど……それが何か関係が?」

『まぁぶっちゃけちゃうと君が泊まる所なんだけど、実はそこが依頼を受けた霊障が起きるペンションでね。ほら、明後日から祝日が繋がって三連休じゃない? 問題を解決してくれたらそのまま、三日間は好きに使っていいって持ち主が言ってくれたのよ。タダで』

「あー、なるほど。そういう事っすか」

『そ。そーいう事。依頼のランクはC。しかも今回は南ちゃんも居る。簡単でしょ』

「は? 南も一緒なんすか?」

『彼女も最近は働き詰めだったからね、いいタイミングだから一緒に骨休めさせてあげようと思ってさ』

「骨休みだぁ? 働き詰めだったにしちゃ今も元気が有り余ってんだけど」

『それは久しぶりに君と会えたからテンションが上がってるんじゃなーい? 供助君が不巫怨口女の件での傷を癒している間、君が抜けた分を埋めようと彼女が頑張ってくれたのよ』

「それを聞かされちゃ断れねぇじゃねぇっすか」

『供助君がそういう性格だから話したのよ』

「横田さんがそういう性格だったの忘れてたよ、ったく」


 その人の性格や人柄を読んで先手を打つのが横田の得意技。しかし、不思議と嫌悪感は無い。

 横田は人格を踏まえ先読みして人を動かすが、その人が本気で嫌がり困る様な方法は取らない。あくまでその人その人に合わせた形で動かす。

 口調が緩く頼りなく見える時もあるが、親しみ易くて人柄も良く、現場上がりなのもあって払い屋の部下からの信頼も厚い。

 その厚みの中に、供助の信頼も多少は入っている。


「明日……ってかもう今日の話か。いきなり誘って大丈夫かどうか分からねぇから何とも言えねぇっすけど……ま、寝る前にメールしときますよ」

『もし供助君の友達等がダメだったら、その時は君達だけで楽しんでよ。あ、あと近くに海があるらしいよ。もう十月になるから泳げないだろうけど』

「海ねぇ。真夏の時期だったら少しは喜べたかもしねぇけど、この時期じゃあな」


 いきなりの遠出で泊まりの話だが、太一や祥太郎は頻繁に供助の家に遊びに来て泊まっている。普段から友人宅に泊まりに出ている二人は大丈夫だろう。

 ただ、最近までほとんど付き合いがなかった和歌については何とも言えない。とりあえず連絡して返事を聞いてみない事には分からない。


「でも遠いって言ってたし、電車代や新幹線代が高くなりそうなら厳しいかもな」

『そこら辺は安心してよ。さっき言ったでしょ、移動費は全部出すって』

「全部って……まさか太一達の分もって事すか!? 随分と太っ腹じゃないすか」

『彼等のお陰で多くの生徒や俺の部下が助かったんだ。何十、何百の命と比べたら安いもんでしょーよ』

「そう言われたら何も言い返せねぇけど……大丈夫なんすか? 前に経費節約とか言ってたじゃないすか」

『こういう時に使う為に普段は節約してるのよ。でもまぁこれが限界なんで、食費とかは自腹でお願いね』


 節約出来るところは節約して、使う時には使う。節約するだけ節約して、結局使わないのはただのケチ。

 こういう風に余裕が出来た経費で部下を労うのも、横田が信頼される理由の一つである。


「とりあえず太一達には聞いときます。一緒に行ける人数が決まったら連絡しますんで」

『よろしくー。依頼のペンションがある場所はあとで送るから』

「わかりました。んじゃ学校までに少しでも寝たいんで」

『あー、長くなってごめんね。俺も眠いし、終わりにしようか。じゃ、おやすみー』


 供助は電話を切り、何か妙な気配を背後に感じて振り返ると。片耳に手を添えて、聴き耳を立てて居る猫又と南が。

 そして、供助が話す前からニンマリと。頬を緩ませて体を震わせてから、大きく両手でバンザイ。


「海だのーっ!」

「海だぜーっ!」


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