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      対抗 -ミセアイ- 弐

「とまぁ、こんなものだの。持ち技はまだ幾つかあるが、全てを出すまでもなかったのぅ」


 相手がもっと手応えのある霊だったらば、もっと技を見せれたのにと。

 猫又は少しばかり残念そうに独りごちた。


「どうだったかの、南? 派手さならば負けていなかったと思うが」

「……いや、あたしの負けだ」

「ぬ? あれだけ突っかかって来たというに、随分と簡単に負けを認めたの」

「目の前で見せられた力差を認めねぇ程、節穴でもなけりゃ馬鹿でもねぇ。認めなきゃならねぇのは素直に認めるさ。悔しさはあるけどな」

「ほう」

「あんたが今見せた技を使われたら、あたしは手の打ちようがねぇ。というか、炎はなんとか対処出来るが、その間にアンタはいくらでも手を出せる」


 猫又の力を目の当たりにして、肩を竦ませて見せる南。

 相手の実力を認めるのも自分の実力の内。変な意地やプライドで視野を狭めず、猫又が自分よりも格上だと受け止める。


「っつーか、アンタ本当に猫又か? ここまでの力を持った猫又は見た事がねぇ」

「猫又という妖怪自体は希少でもなく驚異も低いが、ぶっちゃけピンキリだの。私のように経験を積んで力を磨ぐ者もおる」

「確かに元々が基礎能力が低い妖怪だからって弱いとは限らねぇかんな。あたしだって人間の払い屋でも、古々乃木先輩の足元にも及ばねぇ。ピンキリの話は妖怪だけじゃねぇか」


 弱い種族だからと言って、その全てが弱いとは限らない。中には切磋琢磨して己を鍛え、力を付けて強くなる者もいる。

 猫又もまた、その中の一人。復讐という目的を胸に燃やし、旅をしながら己を鍛えてきたのだ。

 さっき披露した数々の多彩な技が今までの努力の形である。もっとも、威力も高く応用も利きやすいが、相応の妖力を消費してしまう欠点もあるが。


「つーわけで、古々乃木先輩の相棒はアンタだ。猫又サン」

「うーむ……こうもすんなりと認められるとは、なんか拍子抜けだの」

「でも認めたからって、あたしが古々乃木先輩の相棒になるのを諦めた訳じゃねぇからな。いつか実力で追い抜いて、アンタを越えてやる」

「ほう、面白い。それは楽しみだの」


 南は決して相手の実力を偏見や私情から視野を狭めたりしない。競うべき者の力を分析し、己の至らない部分を省みる。

 ここにいた悪霊は弱くない。それを軽くあしらう程の力を持ちながらも慢心せず、己の上に居る実力者を認め、悔しさをバネにする。

 今はまだ猫又に劣っていても、彼女の伸びしろは大きいだろう。数年、数十年後。もしかしたら、数ヵ月後。あるいは明日。

 いつかきっと、その日が来るかもしれない。


「お前等、ダベってないで霊視確認しとけよ。俺は横田さんに依頼が終わったって連絡すっから」

「もうしたッスよ、古々乃木先輩。ここにはもう霊は居ないッス」

「事前情報通り、標的は二匹だけだったようだの。魑魅魍魎の類の匂いもせん」


 互いに標的を倒して会話をしていても、やる事はしっかりやって。

 猫又は嗅覚で、南は霊感による探知で。前情報による標的以外に有害な霊や妖が居ないかを索敵していた。

 依頼の前情報に手違いがあり、元々の数とは別に標的が居たりする事がたまにある。標的を祓ったからと安心していたら、後ろからバッサリ。そんな事も無いとは限らない。


「おし、横田さんにメールした。帰っか」

「そうだの。早く帰って寝たいのぅ」

「そりゃ俺のセリフだ。誰かさんのせいで昼間に寝れなかったからクソ眠ィ」


 顎が外れそうなくらい大きく口を開けて、目尻には薄らと涙。

 昼間に仮眠を取れなかった供助は眠気がMAXで、後頭部を掻きながら欠伸(あくび)する。

 と、左手に持っていたスマホが光りだして、着信音が鳴り出した。


「ん? 電話?」


 現時刻は丑三つ時をとうに過ぎた、午前三時。

 こんな時間に電話が掛かってくるのが珍しいが、加えて着信相手が横田である事が珍しさを割増にしている。

 深夜に依頼完了の連絡を入れても時間が時間だからか、連絡してすぐに返事が来る事がまず無いからだ。


「はい、もしもし?」

『もしもーし、おつかれさーん』


 画面をタップしてスマホを耳に当てると、気の抜ける緩い口調。

 相手は紛れもなく供助の上司、横田だった。


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