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      戦法 -オヒロメ- 弐

「へぇ……あんた、火ィ使えんのか」

「ふっふふ、私は器用な女だからの。多彩な技を使えるぞ」

「ま、なんだかんだと使える技が多いだけが器用って訳じゃねぇけどな。それに器用さなら、あたしも自身あんぜ」


 南は猫又の技を素直に感心したが、それだけが全てじゃないと微笑を零す。

 そして、それは自信の表れでもあった。己の腕はまだまだだと自負はしているが、それでも幾つもの依頼を解決してきた。

 南は南で未熟ながらも、払い屋としての誇りを持っている。


「ほう。ならば南の器用さというものを見せてもらおうではないか」

「あぁ、いいぜ。今すぐ見せてやる――――よっ!」


 猫又へ返答の途中。

 南は急に後ろへ振り返り様、ポケットに突っ込んでいた手を鋭く振るう。

 キンッという金属音がトンネル内に響き、そして……。


「――――イギィッ!?」


 なんとも言い表し難い、酷く錆び付いた鉄扉が強く擦れたような悲鳴。

 猫又の灯火によって作られた、供助達の人影。ゆらゆらと壁で揺れていた黒い影から、その声は発せられていた。


「闇に紛れて近付いたら、影に潜んで襲おうってか? 姿を隠してもダダ漏れの妖気でバレバレだぜ」


 南は口端を緩く釣り上げ、供助の影へと霊気を向ける。

 猫又と南の影は灯火の揺れに応じて動くのに対し、供助の影はぞわぞわと揺れとは異質の動きを見せる。

 先ほど南が投げ放ったのは釘。そこいらのホームセンターで売っている長さ9cm程の鉄丸釘だった。


「ギィ、サマァァァア……!」


 醜い声と共に黒いナニカが蠢き、壁に刺さっていた釘が抜け落ちる。


「先に手ェ出そうとしたのはソッチだ。なら、やられる前にやり返されても文句はねぇよな?」

「イギギギギィ……!」

「でもま、人を襲うのを止めて改心するってなら謝っけどよ」

「許サナイ、オ前ノ恐怖モ食ッテヤル!」


 黒い影はじわじわと大きくなっていき、トンネルの天井までその体を伸ばしていく。

 辛うじて人と認識出来る影の形。南達を威嚇し、恐怖心を煽ろうと黒い炎の如く体を揺らす。


「予想通りの反応だな。こりゃ話し合いは無理だと思うけど、どッスか? 古々乃木先輩」

「あぁ、無理だな。あっちは殺す気満々だ、こっちもそれに応えてやれ」

「オッス! んじゃ、あたしの実力をグータラ妖怪に見してやっかぁ!」

「っと、ちょい待て」

「……?」


 戦闘態勢に入ろうとした南を止め、供助は今回の標的である黒い影へと一歩踏み出す。

 そして、つい、と。顎を小さく上げてから、供助はいつもの台詞を口にする。


「おい、お前。人を食う妖怪……知ってるか?」

「共食いをする(あやかし)もの」


 指先で灯火を燃やし、供助に続いて猫又も問う。

 互いが因縁を持つ、復讐を誓う仇敵の妖怪を。


「アァァ、痛イ痛イ……! オ前のセイデ痛イダロォォォォ!」

「駄目だな、こりゃ」

「駄目だの、これは」


 返ってきた言葉は、問いに対してカスリもしないもの。

 人の言葉を話しても、この妖怪は既に人の話を聞かない。己の感情と欲望のみでしか口を動かさない。

 供助と猫又は予想のままの反応だと、興味は薄らいで肩を竦める。


「南、もういいぞ」

「オッス! じゃ、今度こそ本当にあたしの出番ッスね!」


 南はようやく来た出番に、小さく舌を出して下唇を濡らす。


「怖ガレ怖ガレ怖ガレェェェェ! オ前ノ恐怖ヲ喰ワセロォォォォォォォォ!」

「そうやって人を襲って超えてきたってか。古々乃木先輩からOKが出た以上、手加減はしねぇぞ」

「喰ゥゥゥゥワァァァァァァァセェェェェエェロォォォォォォォォォォ!」

「ま、つっても先手は打たせてもらってるけどな」


 人の恐怖心を喰らうに喰らって、肥大して成長した妖怪。影だった体は黒いモヤへと変化し、両手の指を鋭い刃物のように尖らせる。

 その様はまるで蜘蛛の足の如く。南を握り潰し突き刺さんと、悪霊は両の手を大きく広げる。

 ――――が。


「思うように体が動かなくて不思議か?」


 南が不敵に微笑むと同時に、悪霊の腕の動きがビタリと止まった。


「さっき言ったろ、やられる前にやり返すってな。文字通り、初っ端から釘は刺しといたって事だ」


 先ほど投げた釘は一本にあらず。あの時、他にも同時に何本もの釘が投擲(とうてき)されていたのだ。

 影が伸びる足元。壁と地面の境目、根っこの部分。そこに数本の釘が刺さっていた。


「あたし特製の釘だ。そう簡単にはどうこうできねぇぜ」


 影縫い……とは少し違う。だが、効果は似たようなもの。

 釘自体は市販されている一般的な物だが、釘に込められた南の霊気を刺した妖怪へと流し込み、その動きを鈍くさせる。

 基本は鈍化だけだが、このように数本刺された場合はろくに身動きさえ出来ない。南がよく使う霊具の一つである。

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