先後 -センパイコウハイ- 漆
南がゲームをしている猫又の背中を指差すと、それに気付いて猫又が反応する。
「さっきからガチャガチャと対戦して、ちっとも役に立ちそうな気がしないッス! 古々乃木先輩の相棒にはとても思えないッスよ!」
「役に立たないとは失礼な。私が今までにどれだけ供助のフォローをしてきた事か。見た目だけで判断するとは、まだまだ若いのぅ」
「んだとぉ!? 座布団を枕代わりにして、寝っ転がりながらゲームしてる奴に言われたかねぇよ!」
「ふふん、出来る女と言うのは休む時に休み、遊ぶ時は遊び、寝る時にはしっかし眠るものだの」
供助の後輩とは言え、初対面の人が来ている最中だというのに、猫又は普段通りだらけた格好で太一とゲームしている。
真面目に話している南に対し、猫又は全く説得力の無い台詞を言う。
「何が出来る女だ。それだとぐうたらしてるだけじゃねぇか。あと猫又、今夜も依頼が入った。遊ぶのもいいが程々にしとけよ」
「なぬっ!? これで四日連続ではないか!? 少しばかり多くないかの?」
「また怪異が騒ぎ出して、依頼が大量に入ってきてるんだとよ。この間、寿司食ったんだから文句言うな」
「えぇー? 太一と対戦していたのにのぅ……依頼があるとなれば仮眠せねばならんか」
「いや、学校ある俺と違って、お前は徹夜しても昼間に寝りゃいいだろ」
昼に学校がある供助は依頼前に仮眠を取らないと次の日が辛いが、学校の無い猫又は徹夜で依頼をしても翌日の昼間に寝れる。
供助と同じように仮眠を取る必要はそこまで優先度が高い訳では無い。まぁ、依頼中に眠くなってヘマをしたらゲンコツの刑だが。
「はーぁ、なら対戦はもう終わりにするだの……せっかく新コンボの練習したのに、お披露目は今度か」
「お前はいつも家にいるんだから、ゲームなんて好きな時にできんだろうが」
「私は対人戦をしたいんだの! 格ゲーは難しいコンボを決めてドヤ顔するのが醍醐味ではないか! 一人でずっとCPU戦をするのは寂しいんだの!」
「あーはいはい、悪かったよ」
南に続いて猫又の相手と、もう面倒くさくて仕方ない供助。
小指で耳を掘じり、相槌を打って適当に謝って済ます。
「はい! はいはいはい!」
「んっだよ、南」
「なんかー、古々乃木先輩の相棒さんが乗り気じゃないみたいなんでー……今夜の依頼、代わりに私がお共するッス!」
背筋をピンとして、肘をまっすぐ伸ばした綺麗な挙手。
南はここはチャンスとばかりにアピールする。
「つってもなぁ……依頼は俺と猫又でやるって事になってるし、報酬や難度だってそれに合わせたモンになってっからな」
「大丈夫ッス! そこのグータラ妖怪より優れている自信はあるッス! いや、自信しかないッス!」
「まぁ確かに、寝転がって遊びながら愚痴を言う奴よかマシな気はするな」
「でスよねぇ!? あたしの方が絶対に役に立つッスよ! そんであんな奴とは解散して、あたしと新しく組みましょう!」
南は横目で猫又へと視線をやり、ニヤリと馬鹿にした笑みを見せる。
「ちょいと待てぃ! 誰がグータラ妖怪で役立たずだの!?」
「この場に妖怪ったらあんたしかいねぇだろ。いいんだぜ、そのままゲームしてて。役に立たないで愚痴ばっかのあんたより、あたしの方が古々乃木先輩の負担が減るってもんだ」
「私が供助の負担となぁ!? 私の力も知らずに言いたい放題に言いおって……! 私が供助の負担となってるのは食費だけだの!」
負担になってる部分はあるのかよ、と。そこにいた太一達は心の中でツッコミを入れる。
猫又も南の挑発に乗せられて熱くなっているのか、自分の発言に気付いていない。
猫又は普段は頭も切れて知識も豊富だが、感情が高ぶるとたまにポンコツ具合が現れるのがキズである。
「ならば今夜! 依頼で私の実力の程を見せてやろうではないか! その目付きの悪い目をひん剥いて見ておくんだの!」
「おーいいぜ! こっちこそアンタにあたしの凄さを見せてやんよ! たかだか猫ごときに負ける訳ねぇかんな!」
「その猫ごときに負ける粋がった小娘は、それはもう見ものだろうのぅ!」
「あ、もちろん報酬は古々乃木先輩のものッス! あたしはこのヘタレ妖怪に実力の差を見せければいいッスから!」
「にゃにおう!? キャンキャン犬みとうに吠えくさってからに! 逆に年季の違いを見せてやろうではないか!」
二人……正しくは一匹と一人が、ぎゃあぎゃあと騒がしく言い合っているのを、供助は頭を抑えながら心底面倒臭そうにして見ていた。
とりあえず、太一達はそんな供助に同情の視線を送るのであった。




