先後 -センパイコウハイ- 参
「で、お前は何しに来たんだよ?」
学校からの帰り道。何度も通い慣れた道が、今日は少しだけ変化がある。
いつもとは少し違う状況の中、供助が一つの質問を口にした。
「さっき言ったじゃないスか。古々乃木先輩に会いに来たんスよ」
その質問に対し、パーカーの上にスカジャンを羽織った年上の女性で、供助の後輩。
東戸南は八重歯を見せながら笑顔を作り、供助の隣を歩きながら答える。
「ならもう目的は果たしただろ、さっさと帰れよ」
「ちょーっと、なんでそんな冷たい事を言うんスかー! 久々に会ったんスから、もうちょっと喜んでくださいよー」
「お前と会うといつも喧しくなるからな。いい印象がねぇんだよ」
「ひっど! 古々乃木先輩、それ酷くないッスか!?」
「現に今、こうして喧しいじゃねぇか」
供助はいつもよりさらに背中を丸め、目は半開き。全身から怠惰感を醸し出して、面倒臭さそうなのを隠しもしない。
そんな供助を気にもせず、気にも止めず。南は一人で元気を振りまいている。
二人のやりとりを眺めながら、後ろを付いて歩く太一と祥太郎が居た。
「なんか、こうして見ると本当に先輩と後輩だな。東戸さんが年上に見えないんだけど」
「南さんって普段は近づきにくい雰囲気を出してるもからね。でも、昔から気の知れた人の前ではあんな感じなんだよ」
「ふーん。今はああして供助の前では緩んだ表情を見せてるけど、さっきは眼力がマジでヤバかったからな……」
「眼付きが鋭いのもあるからねぇ。昔は空手を習ってたから、その時の影響で年齢の上下関係には厳しいところはあるけど」
十分ほど前、供助がタメ口なのに釣られて太一もタメ口で話した結果、南から物凄い眼力で睨まれた。
南は生まれつき三白眼なのと、幼い頃に習った空手の影響で眼力の鋭さは他を寄せ付けない。大体の人ならば一瞥されるだけで、蛇に睨まれた蛙の状態になってしまうだろう。
「あ、あのー……ちょっといい、かな?」
「ん? なんだ?」
もう一人の帰宅メンバーである和歌が、小さく挙手をして声を掛けた。もちろん、先頭を歩く供助と南に。
前を歩いていた二人は足を止て振り返ると、和歌は供助と南を交互に見やる。
「あぁん? さっきから少し気になってたんだけどよ、お前……なんであたし等に付いてくんだ?」
「え? あ、私は供助君の……」
「供助君? 供助君だぁぁ? あたしですら名前で呼んだ事ねぇってのに、なに軽々しく君付けで呼んでんだオメェ!?」
「ひぇっ!?」
南は上半身を屈ませて下から覗き込むように睨み、あまりの威圧感と恐怖に涙を薄ら浮かばせる和歌。
男の太一ですら恐怖を感じた眼力に加え、さらに眉間に皺を寄せた怒りの形相。その迫力はそこいらのヤンキーの比ではない。
「アンタ、古々乃木先輩のなんなのさ――――あいでっ!?」
「誰彼構わずガン飛ばすんじゃねぇよ」
ガンくれる南に対し、供助は頭部へと平手を一発お見舞いする。
さすがに面倒臭がり屋の供助でも、友人が脅かされて泣きそうになってるのは無視できなかった。
「なにするんスか、古々乃木先輩っ!?」
「お前が何してんだよ。そいつは俺の友人だ」
「あ、古々乃木先輩のダチだったんスか!? 後ろをずっと付いてくるから、古々乃木先輩を狙う悪い虫かと思っちゃったッスよ」
「んな訳あるか。帰り道が同じだから一緒に帰ってんだよ」
「って事は、こっちの金髪もッスか。てっきり舎弟かと」
「あぁ、それは合ってる」
「合ってねぇよ! 舎弟じゃなくて俺もダチだよ! 変な嘘を言うなよ供助!」
南の言葉を肯定して流す供助に、太一は後ろからツッコミを入れる。
「つーかよ、勝手に付いて来てろくに挨拶もしてねぇだろ、お前」
「あ、そーいやそッスね。祥太郎はもう知った仲だし、二人は古々乃木先輩のダチだとは思ってなかったんで」
南は頭を軽く掻いて、和歌と太一を交互に見る。
先入観と独断で勝手に二人を供助の舎弟とストーカーと決めかけ、名乗る必要は無いと無視をしていた。
まぁ二人との関係どうこう以上に、ほとんど供助しか目に入ってなかったというのもあるが。
「あたしは東戸南ってんだ。歳はハタチで、年上だけど色々あって古々乃木先輩の後輩やってる。ま、よろしく頼む」
銀のメッシュが入った前髪を揺らして、ニカッと笑う南。
さっきまでの態度とは打って変わり、和歌と太一に笑顔を向ける。




