探者 案 ‐サガシモノ アン‐ 弐
『まぁね、色々あるのよ。ちなみに猫又ちゃん』
「なんだの?」
『君が襲われた理由……何か心当たりがあったりしない?』
「う、む……無いの。先程も言ったが、奴は私を痛めつけ楽しんでおった。理由など無く、ただの暇潰しだと思うのぅ」
『何か特別な理由で猫又ちゃんを襲ったのなら、そこから奴の行動範囲や予測が出来るかもと思ったけど……望みは薄そうだぁね』
「恩も恨みも作った覚えは無い上に、私もしがない猫の妖怪だからの。特別狙われる理由も思い当たらん」
『とりあえず、この街から半径百キロを中心に探してみよう。逃げ延びた猫又ちゃんがここに居るなら、君を追っていた人喰いも近くに居る可能性が高いからね』
横田の口調は変わらず無気力な話し方だが、どこか緊張した空気が伝わる。
何年も目撃情報が無かった人喰いの出現。人里近くに居る可能性があれば当然、被害者が出るという懸念が容易に浮かぶ。
そして、ようやく現れた因縁の妖怪。この機会を逃す訳にはいかないと、携帯電話を握る横田の手には、無意識に力が籠っていた。
『さてと、供助君。そろそろクールダウンは済んだかい?』
「……あぁ、大分冷めました」
離れて背を向けていた供助は立ち上がり、片手で髪を掻き上げながらテーブル前に座り直す。
ただ、まだ表情は固く、目の奥には静かな怒りの色が見える。
「悪かったな、猫又。傷を負ってるってのに」
「気にしておらん。それに先程も謝ったろう、二度も謝らんでよい」
「助かる」
供助は猫又を見て微かに口を吊り上げた後、すぐにテーブルに置かれた携帯電話へと向く。
『熱を冷ましてる間、ちゃんと話は聞いてたよね?』
「聞いてましたよ」
『熱くなるのも、君が人喰いを今すぐ探して見付けたい気持ちも理解出来る。けどね、相手が相手だ。ここは慎重に動こう。見付けても返り討ちにあっちゃあ意味無いでしょ?』
「はい」
『俺も悲しい思いはもう、なるだけしたくないのよ』
「……はい」
横田の言葉に供助は視線を落として、物悲しげな顔をする。
『もしこっちで人喰いを見付けた時は必ず供助君に連絡する。だから、君が見付けた場合も必ず俺に連絡を入れるように。決して、一人で追ってはいけない』
「……解ってます」
『大丈夫。討伐の際は必ず君を参加させるから。感情に任せて無理はしないよーに』
「はい」
肩を上下させ大きく深呼吸。
供助は気持ちを落ち着かせ、静かに返事した。
『ここで一つ、提案があるんだけど』
「提案、ですか」
『うん。可能性は低いけど、人喰いを見付ける為のね』
「奴を見付けられるなら……どんな提案でも協力しますよ」
『助かるよ。ちなみに供助君だけじゃなく猫又ちゃんも関係あるんだけど』
「うぬ? 私がかの?」
自分の名前が呼ばれると思っていなく、少し慌てて自分を指差す。




