猫魂 -ニャンタマ- 漆
「早くも猫又の事をよく分かってんな、お前」
「そ、そうなのかな?」
「これからも上手く扱ってくれ。俺が助かる」
「あ、あはは。別に扱ってるって訳じゃないんだけど……」
少し反応に困った様子で、和歌は頬を小さく掻く。
「そんじゃ反省文を書くのは飯のあとか」
「え? なんで?」
「なんでって、反省文を手伝ってくれるっていうお前は今から買い物に行くんだろ?」
「私が居なくても反省文は書けるでしょ。まずは自分の力で書き切らなきゃ。私が添削してあげるから」
「うへぇ、面倒臭ぇなぁ……」
供助は背中を丸くさせ、クリアファイル内の原稿用紙を見てウンザリする。
「ま、晩飯が半額弁当じゃねぇと思えば、なんぼかはやる気が出るか」
「じゃ私は買い物に行ってくるから、しっかりね」
「わーってるよ。あと戻ってきたら勝手に入ってきていいからな。呼び鈴が壊れて鳴らねぇからよ」
「うん、りょーかい」
和歌は掃き出し窓で靴を履き、空が夕焼け色になり始めた外へと出ていった。
スーパーまで往復で二十分程だが、夕方の時間帯は客が多い。レジも混んで、和歌が帰ってくるには少し時間がかかるだろう。
供助はテーブルに原稿用紙を広げ、厄介この上ない反省文と向かい合う。
「おい猫又、太一。今から反省文書くからあんま騒ぐなよ」
供助は近くの戸棚の引き出しからシャーペンを一本取り出して、中に芯が入ってるかを確認する。
「しょうがねぇなぁ……じゃあ俺は供助の隣でゲーム実況してあげっから!」
「ならば太一、格ゲーで対戦しようではないか! 私のコマテクを見せてやろう!」
「お前等、邪魔してぇなら出てってくんねぇか?」
供助の事など一切気に掛けず。むしろ、面白がって喧しくなる太一と猫又。
猫又は目の前に人参をぶら下げられた馬の如く、物凄いスピードで漫画をまとめていく。そして、ゲームハードをテレビに繋げて設置する太一。
もはや、供助に邪魔をする気満々である。
「……閃いた。私、閃いたの」
「ん? 何がだ?」
「供助の必殺技、ギャラクティカファント……」
「却下」
畳に置いたコントローラーを前足で操作する猫又が言い切る前に、言葉を遮る供助。
結局オリジナルからかけ離れたものばかり。むしろ今のに至ってはまんまである。
供助は後ろで騒ぐ二人へ溜め息を漏らしながら、頭をぶっきらに掻いてからシャーペンを握り直す。
「供助ぇぇぇぇぇ! 太一のヤツ、パワチャばっかしてくるんだがの!?」
「……」
「砂かけハメはズルい! それは卑怯だの!」
「…………」
「あーっ! 私のチャンコーがぁぁぁ!」
「………………」
「ちょ、暴走とか裏キャラは禁止だの! ひぃぃ、もうピヨった!」
「うっせぇぇぇ! もう少し静かに――」
「コマ投げからピヨってフルコンで死んだ! この人でなし!」
ぶちん、と。供助の中で何かが切れた。
いやもう何か、なんて言葉を濁す必要はない。切れたのは血管と、堪忍袋の緒。
猫又の頭部を利き手である右手で鷲掴み、霊力は要らない。単純な力、握力のみで充分。
ただただ思いっ切り握るだけ。いわゆるアイアンクロー。
「う、る、せ、え、って言ってんだ糞猫っ!」
「いだ、いだだ、あいだあだだだだだだだだっ! ボス属性が無いから瀕死状態になるのぅ!?」
「そりゃアイアンクローじゃなくてデスクローだろうが」
いつまで経っても静かにならず、いつまで経っても反省文は進まない。
供助が反省文を書き終えるのはいつになるやら。




