猫魂 -ニャンタマ- 陸
「他には十月の予定表とか、保護者へのお知らせとか。あとは停学中に書く反省文ね。原稿用紙五枚だって」
「……こっちは確実に嫌がらせだわ。捨てていいか?」
「良い訳ないでしょ。反省文を提出しなきゃ停学が解けないんだから、ちゃんと書かないと」
「うへぇ、面倒臭ぇなぁ……」
クリアファイルから原稿用紙を取り出して、無数にあるマス目を見て辟易する供助。
頭が悪けりゃ口も悪く、文才も無い。こういう作文だとか感想文の類は苦手だった。
いや、元より勉強で得意なものなどなかったか。
「嫌なのは分かるけど、書き終わるまで私も手伝ってあげるから」
「はぁ……しょうがねぇか」
「でもその前に、まずはこの部屋を片付けるのが先かな」
「こんなに散らかってちゃあな。おい猫又、早く片付けろ」
居間中に散らかってる漫画を見回して、和歌は苦笑い。
この前の打ち上げの時も結構な散らかり具合だったが、今もそれに負けてない散らかりようである。
「えー? 猫のままだから片付けるの大変なんだがのぅ……」
「その猫のままでここまで散らかしたくせに、片付けは大変だってか」
「行きは良い良い、帰りは怖い的な?」
「どうでもいいからさっさと片付けろ。じゃねぇと晩飯抜きにすんぞ」
「ひぃい、それだけは勘弁! 毎日代わり映えせんスーパーの半額弁当とは言え、数少ない楽しみなんだの!」
払い屋の依頼が無ければ日長一日、テレビを眺めて漫画を読んで昼寝して。飯時には半額弁当を食べる。
充分に楽しみばかりの生活に見えるが、猫又にとってはそうではないんだろう。社会人からすれば羨ましいったらありゃしない日常である。
「んー……供助君って、いつもスーパーの弁当ばかり食べてるの?」
「貧乏って訳じゃねぇが、節約出来る所はしとかねぇとな。まぁ、食器を洗う必要が無いってのもあるけど」
「ふーん、そっか。そうなんだ」
和歌は顎に人差し指を当て、何やら視線を下に向けて呟く。
「じゃあさ、今日の夕飯……私が作ってあげよっか?」
「なぬっ!?」
「お前が?」
「それは是非とも……もがァ!?」
「お前は黙って片付けてろ」
夕飯、という言葉にいち早く反応した猫又。
それを予想していてか、供助は喧しく鳴かれる前に猫又の口を右手で塞ぐ。
「供助君の反省文を手伝うのに夜まで居るだろうし、スーパーのお弁当ばっかりじゃ栄養偏っちゃうでしょ?」
「いや、そもそもお前って料理できんのか?」
「しっつれいな! これでも料理は得意なんだからね! 毎日学校のお弁当も自分で作ってるんだから!」
「そうなのか? ガキの頃の記憶しかねぇから、料理してるってイメージがどうも無くてよ」
「それなら今夜、私の腕前を見せてあげようじゃないの」
「おう、頼むわ。半額弁当以外のモンを食えるってんならありがてぇ」
和歌との仲が戻ったのはつい最近。というか、四日前。中学校の間は完全に疎遠状態だった二人。
成長してからのお互いの事は、まだ薄くしか知らない。小学校の頃の記憶しか無かった供助には、知らないのも無理のない事だった。
「猫又さんは何か食べたい物はありますか?」
「えっとね、んっとね……カレー! カレーがいいのぅ! 若干甘めのヤツ! あと赤い福神漬け!」
「カレーですね、わかりました。じゃあ今から材料を買ってきますから、早目に片付けてくださいね。こんなに散らかってたら落ち着いてご飯食べれませんから」
「よしきたっ! ぬぅおおおっ、マッハスペシャルだの!」
嫌々といった態度で片付けていたのが一転。
猫又は音速を超えた(ような気がする)スピードで、畳に散らかった漫画を集めていく。




