猫魂 -ニャンタマ- 伍
「それよりも話は聞いていたぞ。少年、君の必殺技に名前が必要なのだろう?」
「話は聞いてたって、お前いつから居たんだよ」
「『供助には必殺技がない!』ってあたりから、外でずっとスタンバってました」
「馬鹿だろ、お前」
「いいからネーミングだッ! 我が格好良いのを付けてやろう!」
まるで羽織ったマントを広げるように手を上げ、太一は高々と声を張る。
「その名も……天上天下一撃必殺拳! どうだ、格好良いだろ!」
「却下」
「却下だの」
「即答っ! なんでさ!?」
「ダサい」
「長い」
日本人を救うT・T、ネーミングセンスはゼロだった。
あまりのダサさに供助と猫又も即答。いや、似たようなパクリ感を丸出しな必殺技名を出した猫又が、ダメ出しするなと言いたいが。
「必殺技とかどうでもいいからよ、猫又はいい加減に片付けろ。太一が来ちまっただろ」
「だから、我は太一などと言うイケメンでは……」
「もう面倒臭ぇから太一も仮面脱げ」
「あ、はい」
もういい加減に付き合いきれないと供助から若干の怒りと呆れが見えて、太一も大人しく仮面を取る。
「あのー、呼び鈴が鳴らなくてさっきから呼んでるんですけど」
「お、委員長。供助、委員長も来たぞー」
一度家に帰って制服から私服に着替えた和歌が、掃き出し窓からこっちを覗いていた。
どうやら少し前から居たようだが、供助達はくだらないやり取りをしていて気が付かなかったらしい。
「おう、和歌。悪ぃな、どっかの誰かさんが前に呼び鈴を連打したせいか壊れちまってんだ」
「壊れたんなら直せよ。そんなに修理代も掛かんないだろ、呼び鈴なんて」
「だったら壊した本人のお前が修理代を出せよ、なぁ太一?」
「おっと、どうせこの家は俺達以外に人は来ないからな! 別に直さなくていいと思うぞ!」
「ったく……」
供助は頭を掻いて、大きく溜め息。
せっかく、という言い方もおかしいが、停学中で静かに過ごせると思っていればこれだ。
不巫怨口女の一件の疲れは抜けたが、傷はまだ完全に癒えていない。これじゃあと何日かかるやら。
「太一は暇潰しに来たってぇのは分かる。で、和歌は何の用だ?」
「なによ、田辺君は用がなくても来ていいのに、私はダメだって言うの?」
「いや、そういう訳じゃねぇけどよ……」
「はい、これ。先生から渡すように言われてきたの」
「なんか随分とあるな」
和歌が供助に渡すは、クリアファイルに入れられた多くのプリント。
数は十枚くらいだろうか。本来は薄いクリアファイルには少しの厚みが帯びている。
「あ、一枚だけ入ってる写真は文化祭のだって。先生が撮ったから、クラスの皆に配ったんだけど……」
「こんなの貰ってもな……参加してない俺にも配るとか嫌がらせか何かか?」
「そ、そんな事は無いと思うけど……皆に配ってたのに供助君だけに配らないって訳にはいかないだろうし」
「まぁ、そうかもしんねぇけどよ。俺だけが居ない集合写真を貰ってもな」
はっきり言って、貰っても扱いに困る。別段欲しい訳でもないし、かと言って捨てる訳にもいかない。
自分は写っていなくとも、仲のいい友人は写っているとなんか雑にも扱えない。まぁいつか話のネタとして使えるだろう。




