猫魂 -ニャンタマ- 壱
「おい、猫又。もう少ししたら太一達が来るってから、そこら辺を片付けろ」
「んー?」
昼食に食べた半額弁当の空箱がテーブルに転がっぱなしのまま、すでに二時間の時が過ぎていた。
テレビで適当なワイドショーを流しつつ、供助はスマホを片手に猫又に話しかける。
曖昧な相槌を打ちながら漫画を読んでいる猫又。それも、猫の姿で寝そべって。前足で漫画を押さえ、器用にページをめくる。
「聞いてんのか?」
「ちゃんと聞こえておる。太一が来るのであろう?」
「なら片付けろよ。お前が読み散らかした漫画なんだからよ」
供助が停学になって四日目。文化祭の代休も昨日で終わり、供助を除く生徒達は今日から登校である。
友人達が勉学に励んでいる間、供助はだらだらと停学生活を満喫していた。
ちなみに猫又が人の姿じゃないのは、やはり完全に本調子まで回復していないのもあって、妖力の消費が無い猫の姿で生活している。
この前は寿司を食べたいあまりに変身出来たのだが、実はその後、二時間ほどで猫の姿に戻ってしまった。
ただ、短時間だけならば人の姿に変身は可能で、飯を食らう時だけは人型になっている。
「のぅ、供助」
「んだ?」
「いやの、そろそろ私たちもテコ入れをした方がいいと思っての」
「ん? いや、ん? なんだよテコ入れって」
「だっての? 今時のバトル物の主人公って大概はこう、代名詞と言える武器とか必殺技があったりするではないか」
「まぁな。っつーか、俺ぁ別に漫画の主人公じゃねぇし。武器なんか使わなくても払い屋としてやっていけてんだ、問題無ぇだろ」
「フゥ、やれやれ。駄目だの、駄目の駄目駄目だの。これだから馬鹿は困る」
「あぁん?」
猫又は供助へと呆れた視線を向けて、首を左右に振る。
「私にあって供助には無い、決定的な違い。何か分かるかの?」
「いや、どうでもいいから片付け……」
「派手さが無い――つまり、見栄えしないっ!」
「聞きやしねぇ」
ドンッ! そんな効果音を背にして、猫又は供助にお構いなく話を進めていく。
「ほら、私って属性の塊で居るだけで見栄えすであろう? 特徴的な語尾に猫耳と尻尾。さらに美人で、猫の姿でマスコットキャラにもなる。もう完璧」
「あと貧乳な」
「ああ、忘れとった。着物もそうだの」
「都合良く聞き流すんじゃねぇよ。てめぇのデメリットも認めろよ。おい、貧乳」
「それに比べて、供助には何も無い。それが問題なんだの」
「あ、こいつ完全に聞かなかった事にする気だな」
自分に都合の悪い事には耳を閉じて知らんぷり。
猫又は供助の方へと向き直して、ビシッと指を刺すように前足を突き出した。
「天邪鬼、面倒臭がり、素直じゃない、半額弁当……いい所がひとっつも無いではないか! 無いではないかっ!」
「なんで二回繰り返すんだよ。それと、あまのじゃくってなんだ?」
「おまけに頭も悪いっ!」
超ドでか溜め息を吐いて、項垂れながら首を振る猫又。
特徴という特徴が全てデメリット。良い所が一つもない。




