打上 -ゴチソウ- 漆
「って、寿司あんじゃん! 供助、お前何か悪い事したのか?」
「なんでどいつもこいつも……臨時収入があったから買ったんだよ。今回は猫又に助けられたからな、その礼でだ」
「供助の食卓で半額弁当以外が並んでるなんて珍しい光景だ……」
「ああ、俺もそう思う」
我が家で寿司が食えるなんて何年ぶりか。少なくとも、供助が高校に入って一人暮らしするようになってからは一度も無い。
もしかしたら、この光景が見れるのは最初で最後かもしれない。それくらい珍しかった。
「ぷっはーっ! 久々の酒は効くぅぅぅぅ! 供助、寿司食おう、寿司!」
「お前、もう飲み始めやがって……しゃあねぇなぁ、台所から小皿持ってくる」
「供助君、私も手伝うよ」
「悪ぃな。そんじゃ和歌は唐揚げとかをレンジで温めてもらっていいか?」
「うん。大森君のたこ焼きも一緒に温めるね」
和歌は惣菜類が入った袋を持って、供助と一緒に隣の台所へ移動する。
「祥太郎、適当に菓子も空けといてくれ。俺は飲み物と紙コップ出すから」
「わかった。猫又さん、この中で何か食べたいお菓子あります?」
「えーっとのぅ……あ、それ! チョコあ~んこパンがいい!」
「ビール飲んでるのに甘いのでいいんですか……?」
「ふっふ。ビールに甘い物……意外と合ったりするんだの」
「へぇー。お酒には塩っぱい物が合うんだと思ってた」
「お、ヘビィスターラーメンがあるではないかっ! しかも旨塩味っ! わかっとるのぅ!」
「おいしいですよね、これ。僕は普通のチキン味が好きですけど」
ビールを片手にコンビニ袋を覗いて、中身を物色する猫又。
隣で準備をしている太一をよそに、祥太郎とお菓子の話を弾ませていく。
そんな賑やかな声は、隣室の台所まで届いていた。
「なんかさっそく打ち解けてんな」
「猫又さんって気さくで話しやすいから、田辺君と大森君はすぐ仲良くなるんじゃない?」
「まぁな。人見知りするような性格でもねぇからな」
和歌は電子レンジの温め時間を設定しながら、居間の賑やかな声を聞いて自分も楽しそうにしている。
器棚から人数分の小皿を取り出す供助も、頬を緩めていた。
「でも、良かったのかな……いきなり私達が来ちゃって」
「あん? 家に上がっといて今さら何言ってんだ?」
「そ、それはそうだけどっ! けど、お寿司を買って食べようとしてたみたいだったから……迷惑だったんじゃない?」
「気にすんな。こっちとしては色んな食いモンを持ってきてくれて有り難てぇし、猫又も太一が持ってきた酒に喜んでる。迷惑なんかじゃねぇよ」
供助は洗い場に寄り掛かって、レンジに入れた料理が温まるのを一緒に待つ。
つい最近までは口喧嘩をして、すれ違って、言い合ってたのに。今では笑い合いながらお喋りが出来る。
学校では怠そうにして、面倒臭がって、笑顔なんて滅多に見せない供助が……こうして、感情を隠さず表にして笑っている。
和歌はまるで仲が良かった昔に戻ったように思えて、楽しさよりも嬉しさが強かった。
「それに、どうせ食うなら賑やかな方が美味ぇだろ?」
「……うん、そうだね!」
払い屋とは日の目に掛かる事は無い。だから、その者の働きや苦労、犠牲が知られる事は稀有である。
こうして供助の行いを知り、理解してくれる者達はとても貴重であり、そして大切な存在だろう。
世に知られる事は無い。だが、ほんの僅か。友に知られ、共に生きていけるのならば。それはきっと、とても素晴らしい事だ。
だから、どうか。この者達の笑い声が、いつまでも続いますように。




