打上 -ゴチソウ- 陸
「そういや言いだしっぺの太一はどうしたんだ?」
「太一君は一度家に寄るからって、一足先に帰ったんだけど……そろそろ来るんじゃないかな?」
祥太郎が荷物をテーブルの上に置きながら答えると、噂をすれば何とやら。
居間の掃き出し窓から見える庭が人工的な光に照らされて、何やらエンジン音が近付いてくる。
少し暑さがあって開けっ放しにされた掃き出し窓の先に、スクーターに乗った太一が現れた。
「お、皆さんお揃いで。いやぁ、ちょっと家に取りに行ってたから遅くなった」
太一はヘルメットを取って、スクーターのエンジンを切る。
そして、後ろの荷台に縛られていた段ボール箱を持ち上げ、掃き出し窓まで持ってきた。
「よっ、こいしょ……っと!」
一つのダンボール。いや、ダンボールというより一ケース。
太一が重そうに運んで、畳の上に置いたそれはビールであった。
「び、び、び……ビール!? 酒ではないかっ!?」
「へっへー、猫又さんが飲むかと思ってさ。親父に頼んで貰ってきた」
「えっ!? 今日はビールを飲んでいいのかの!?」
「あぁ、おかわりもいいぞ」
実は太一の実家は自営業で酒屋を経営している。それもあって、未成年でも太一は容易に酒類を手に入れる事が出来る。
スクーターも家の配達を手伝うのに必要だからと、学校に申請して正式に免許を取ったもので、決して校則を破って取った訳では無い。
そこんとこは意外とちゃんとしている太一なのである。
「お……おお……ご馳走が、ご馳走がこんなに一杯……しかも酒まで……」
ずっと食べたかった寿司に、様々な揚げ物。たこ焼き。お菓子にジュース。さらに酒。
猫又が供助の家に住み始めてからは見た事もないご馳走の山。いい匂いに食欲は刺激され、テンションもだだ上がり。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
時に、精神は肉体を凌駕する。理由はどうであれ、それは確かに存在する可能性。
――――ぼふんっ!
猫又の絶叫と共に巻き上がるは白い煙。そして、その白煙の中から現れるは人型の猫又。
「復ッ活ッ! 猫又復活ッッ!」
「飯食いたさで治るとか、お前の食い意地どんだけだよ」
「今ならご馳走を食べた後に十四キロの砂糖水も飲めよう! そんくらいの復ッ活ッだの!」
「叫び過ぎて裏返ってんぞ」
「毒が?」
「声がだよ!」
人の姿に変身できるようになり、さらには沢山のご馳走と久々のアルコール。
テンションの高さだけなら、今の猫又は地上最強の生物。な気分。
すごいね、人体。
「のぅ、さっそくビール貰っていいかの!?」
「どうぞどうぞ。家の冷蔵倉庫に入れといたんで、いい具合に冷えてますよ」
太一はダンボールのケースを開け、中から取り出される一本のビール。
それを差し出され、猫又は両手で受け取る。
「キンッキンに冷えてやがる……! ありがてぇのぅ……!」
なんか猫又の鼻と顎が尖ってるように見えるが気のせいだろう。
「太一もいつまでも外にいねぇで中には入れよ」
「そんじゃ、ここからお邪魔ーっと」
太一は靴を脱いで、掃き出し窓からそのまま家に上がってきた。




