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      打上 -ゴチソウ- 肆





     ◇     ◇     ◇





「ただいま、っと」


 供助は夕飯の買い出しから戻り、滑りが悪い玄関の引き戸を開ける。

 脱いだサンダルは片方ずつ明後日の方向を向いて転がるが、面倒臭いと直さずに家に上がっていく。


「お、帰ってきたか。おかえりだの」

「おう。晩飯買ってきたぞ」

「カツ丼はあったかの、カツ丼!」

「一応探してはみたが、今日は残って無かったわ」

「むぅ、そうか……半額になる時間まで残ってるかは運次第だからの、仕方ないか」


 猫又はがっくりと頭を落とし、連動して二本の尻尾も畳に落ちた


「で、だ。代わりにこれ買ってきた」

「ぬ? ぬぬぬっ!? こ、これは……!?」


 言って、供助が居間のテーブルに置くはスーパーの袋。

 しかし、いつもと違う。いつもの弁当が複数入っている袋よりも、明らかに大きい。大きくて、なんか丸い。

 猫又が前足だけテーブルに乗せて袋の中身を覗き込むと、色鮮やかに生魚の切り身が並ぶ光景があった。


「寿司っ! 寿司ではないか!」


 猫又は目を輝かせて、喜びで耳をピンと立たせる。もちろん尻尾も。

 しかも、寿司は一人前用のパックではなく、パーティー用の特大のものだった。軽く五人前はあろうだろう。


「供助、なんか悪い事したの? 死ぬの?」

「してねぇし死なねぇよ!」

「じゃあなんで寿司なんて高価な物を買ってきたんだの!? 頭を怪我して暗黒騎士になったとしか思えん!」

「俺ぁ正気に戻ってるっつの。スーパーに行く途中、横田さんから電話があってよ」

「横田から?」


 今から大体三十分くらい前。

 スーパーに向かう途中で掛かってきた電話で、横田はこう言った。 


『だから、今日の昼間に供助君の口座に入金しといたから。二万円。依頼の報酬に比べたら少ないけど、俺からのご褒美だ。美味い物でも食べて、英気を養ってよ』


 そう言われ、スーパーのATMで確認したら本当に入金されていた。

 予想外の収入に、供助はだったらと奮発して寿司を買ってきたのだった。


「って事があってよ。そんで買ってきた」

「横田ぁぁぁぁぁぁぁぁ! そこに痺れる憧れるゥゥゥゥゥ!」

「ま、予定とは違うが……お前には助けてもらったからな。約束通り食わせてやろうと思ってよ」

「回らない時価の寿司とまではいかぬが、それでも寿司は寿司! 十分嬉しいのぅ!」

「何言ってんだ、間違いなく回らない時価の寿司だろうが」

「ぬ? 回ってないのは分かるが、時価ではなかろう?」

「俺が何の為に九時過ぎのスーパーへ買いに行ったと思ってんだ」

「ま、まさか……」


 猫又は気付き、すぐさま寿司の値札を確認する。そこに貼られていたのは、赤と黄色の見慣れたシール。

 そして、赤い文字でこう書かれていた――――“半額”と。


「時価に変わりゃしねぇだろ?」

「こりゃ一本取られた。確かに時価にはかわりないのう」


 時価とはその時々で商品の値段が変わる事を言う。

 ならば、スーパーで夜九時を過ぎて半額シールを貼られたのもまた、時価と言えよう。


「しかし、寿司を食えるのは嬉しいが……人型に変われんと不便でならんのぅ。これでは思うままに寿司が食えん」


 思いがけないご馳走にありつけて嬉しさも大きいが、人型に変身できないせいでご飯を食べるだけでも一苦労。

 江戸っ子なら寿司は手で食べるのもありだが、いかんせん今は猫。猫の足じゃあどうやっても寿司が掴めない。


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