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      打上 -ゴチソウ- 参

「もうすぐ十月だってのに、あったけぇもんだ。温暖化の影響ってヤツかねぇ」


 外灯が少ない道を歩いて、供助は独り言を言う。

 まだ遅い時間ではないが、夜になって暗くなれば人通りも少ない。誰に聞かれる事もないと、供助は気にしない。

 と、家を出てから五分くらい。ポケットの中でまたスマフォが震えているのに気付く。


「電話……? 今度こそ横田さんか」


 取り出して画面を見ると、着信名に『横田さん』と表示されていた。


「はい、もしもし」

『や。調子どう? 怪我とか大丈夫?』

「まあまあっすね。猫又もまだ上手く妖力を使えねぇけど、調子はいつも通りっすよ」

『それは良かった。君は結構傷だらけなんだから、体が丈夫だからってあんま無理しないよーに』

「学校も一週間の停学になっちまったんで、ゆっくり休みますよ」

『停学? 何しちゃったのさ?』

「ほら、今日から文化祭だったからちょっと騒ぎすぎちゃいまして」

『あーらら。文化祭ではしゃぐなんて、供助君も年相応な所があんのねぇ』


 電話先から横田の軽い笑い声が聞こえてくる。

 横田は親でも保護者でも無く、ただのバイト先の上司。責任を問われる身分から離れれば笑い話程度の事だ。

 もっとも、横田は横田で供助という人間がどういう者かを知っているからこそ、軽く笑って済ませるのだろう。


『また連絡するって言ってたし、事後報告も一応しとこうかなと思ってさ』

「事後報告って不巫怨口女の件ですか?」

『そ。学校の生徒と教員達は全員無事。後遺症もなんも無く済んだよ』

「まぁ、今日の学校もいつも通りだったし……聞くまでもなく、そうでしょうね」

『あとウチの払い屋も命を落とした者は一人もいなかったよ。傷を負った状態で結界を張っていた何人かは重傷で入院してるけど、命に別状はない』

「そりゃ良かった。これで報酬も貰えてりゃ文句なしだったのによ」

『まぁまぁ。気持ちは分かるけど、ここは素直に平穏無事を喜ぼうよ。俺達は“祓い屋”じゃなく“払い屋”なんだから』

「分かってますって。ただ少し愚痴りたかったんすよ」

『あとは嵐の後の静けさってヤツかな。ここ最近多かった霊障が急に減っているという話が来ている。この様子だと依頼の数も落ち着いていくだろうと読んでいる』

「そうなんすか? でもそういや確かに、今日は霊や妖を見掛けないっすね」

『ここのところ騒いでいた雑魚が、いきなり現れた不巫怨口女(おおもの)の妖気にビビって大人しくしてるんだろう。今言ったように何人か入院して人手が減ったからね、お陰で助かったよ』


 ここ数週間、供助が住む五日折市を含む一定範囲では霊障が多く発生し、例年の三倍にも及ぶ依頼の多さだった。

 しかし、今こうして外を歩いている供助が辺りを適当に霊視をしてみても、霊や妖の姿どころか影すら見当たらない。

 いつもなら人畜無害な霊や妖はどこかかしらに浮遊していたりするものだが、今日は注意して探しても見当たらない。横田の言う通り、怖気付いて身を隠しているのだろう。

 例えるなら調子に乗った高校生のヤンキーが騒いでいた所に、ヤクザが拳銃を発泡して威嚇しながら乱入してきたようなもの。そりゃ怖くて家に引きこもるだろう。


『という訳なんで、供助君は何も気にせずに傷を癒してよ』

「了解っす。家計に響かない程度に休ませてもらいます」

『ああ、そうそう。もう一つ言う事あったんだ』

「なんすか?」

『いやね? あんだけ頑張ってくれたのに、報酬がなんも無いってのはちょっと酷かなぁって思ってさ』


 昨夜の依頼は急にして難解、加えて過去最高の強敵だった

 しかも、被害にあった場所は高校。もしかしたら今頃は大量殺人のニュースでテレビで流れていただろう。

 緊急事態であったとは言え、不巫怨口女を足止めさせるという無理難題を供助と猫又に任せる決断をしたのは横田であった。

 死人も出ず、最悪の事態は回避出来た。だがしかし、今回の依頼は祓い屋に横取りされて報酬は無く、二人は怪我を負って事に対して横田は自責の念があった。

 今回の件で一番の貢献者の二人が無償だったのを気にして。それ以上に感謝して。


『だからね、今日の昼間に――――』




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