打上 -ゴチソウ- 弐
「なんかあっさりしてんなぁ」
『なんだ、お前は怒られたいのか?』
「いや、そういう訳じゃねぇけど……初っぱなから怒鳴られたし、てっきり怒られるもんだと思ったからさ」
『お前は香織が育てた孫だ。理由も無く暴力を振るう本当のバカじゃない事は、ワシは知っとる』
「じいちゃん……」
『ただな、ばあさんが心配しとったぞ! いくら迷惑を掛けてもいいが、ワシ等の寿命を減らす真似だけはやめろよ!』
「ごめん。ちゃんと謝るよ」
『ワシが聞きたかったのはそれだけだ。ばあさんが話したがっとるから代わるぞ』
「あぁ」
祖父はほんの数分の会話で満足し、電話口を祖母と代わる。
普段は悪態をついて面倒臭そうにしている供助が、こんなしおらしい反応を見せるのは初めてだった。
「大丈夫、ちゃんと食ってるよ。一年以上も経てば嫌でも慣れるって」
胡座をかきながら電話をする供助。
いつもみたく背中を丸めているが、今はその背中がなぜか可愛く見える。
「そのうち顔を出すよ。うん、じゃあ」
祖母と近状の報告などを話し、十分ほどで電話は終わった。
供助は真っ暗になったスマフォの画面を数秒眺めて、祖父母へ心配を掛けてしまった事への反省を含んだ一息を吐いた。
「……電話の相手は祖父母か」
「あぁ。学校から俺が停学になったって連絡が行ったらしい。ま、当然か。今の保護者って事になってるからな」
供助の両親は既に他界して、この家には一人で住んでいる。まぁ今は一匹の居候が増えたが。
とは言え、供助はまだ高校生で未成年。保護者が必要な年齢である。その為、今は母方の祖父母が後見人として供助の親代わりになっている。
「父さんには親戚がいなかったらしくてな。そんで自動的に母さんの親戚に引き取られたんだ」
「そうであったか。しかし、父方の親戚がおらんとは、何か理由が……いや、すまん。何でもない」
「あぁ、別にいい。詳しく聞いた事なかったし、父さんも父さんで大して気にしてなかったからな」
「ふ、む……そうか、なら良かった」
供助はが気にするなと言うが、猫又は失言してしまったと反省する。
先程の会話を聞いた通り、祖父の性格は竹を割ったような性格をしている。対して、祖母は心配性なところがあって何かと気に掛けてくれる。
今回の停学で祖父母には迷惑と心配を掛けたと、供助は改めて反省をしていた。そして、詳しく聞かず孫である自分を信じてくれた事が嬉しかった。
「っと、気付きゃいい時間だ。んじゃ、ちょっくら飯を買いに行ってくるわ」
「お、もうそんな時間であったか。確かに腹が空いたのう」
「今日は何か良い弁当が残ってりゃいいんだけどな」
「停学謹慎中なのに外へ出て歩いて大丈夫なのかの?」
「食わなきゃ死ぬのに、そんなもんを律儀に守るバカはいねぇだろ」
「ま、そりゃそうだの。供助、今日はカツ丼が食べたい気分だからカツ丼を頼むの」
「あったらな」
スマフォと財布をズボンのポケットに突っ込み、着のままの姿で居間を出る。たかだかスーパーに買い物に行くだけ。いちいち着替えて身だしなみを気にする必要はない。
Tシャツにジャージ、靴はサンダル。ラフな格好で家を出る。外はほんわかとして、秋なのに春の夜のような温かさ。半袖でも寒くない。




