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第七十三話 打上 -ゴチソウ- 壱

 供助が停学になって初日。太陽は少し前に落ちて、今は空に星空が見える。

 日曜日の夜といえば月曜日の襲来に怯えて憂鬱になる時間だが、一週間の停学になった供助にはそんなものはない。

 だらだらと畳の上に寝転がり、頬杖を立てて居間でテレビを見ていた。猫又も近くの座布団で丸まり、一緒にごろごろ。

 現在の時刻は八時過ぎ。九時になれば行きつけのスーパーで半額シールが貼られ始める。それまでテレビを見ながら暇を潰していた。

 半額弁当は財布には優しいが、こうして半額シールが貼られる時間まで夕飯を食べれないのが地味に辛い。


「のぅ、供助。喉が渇いた。烏龍茶を入れてくれんかの」

「自分でやれ、自分で」

「自分で出来んから頼んでおるんだの」

「ったく……」


 寝転がっていた供助は体を起こして、テーブルに置いてあった烏龍茶のペットボトルを取る。

 キャップを開けて中身を注ぐは、畳に置かれたお皿。猫又はまだ人型になれない為、コップでは飲み物を飲みにくい。

 なので底が浅い皿に入れて、従来の猫と同じ方法で飲んでいた。


「こんなもんか?」

「うむ。どうもだの」


 一センチほど注いだところで止め、キャップを閉めて烏龍茶をテーブルに戻す。

 猫又は人型での生活が慣れていたせいで、今まで出来ていた事が出来なくなって何かと不便そうだった。


「ところで供助、なんか携帯が鳴っておるぞ」

「ん? あぁ、横田さんか?」


 さっきまで供助がクッション代わりに折り畳んで使っていた座布団の横で、振動するスマホがあった。

 そういえば昨日、演劇の練習中に鳴らないようにマナーモードにしていたまま解除していなかったのを思い出す。

 手に取って画面を見たところで、供助の動きがピタリと止まった。


「ん? どうした、供助?」

「いや、あー……そうだよなぁ、行かねぇ訳ねぇか……」


 猫又に返事は無く、渋い顔をさせてスマフォの画面を見つめる供助。この反応を見る限り、予想していた横田からの電話では無い事は分かる。

 ならば、供助が電話に出るのを戸惑う相手は一体誰なのか。猫又は烏龍茶を飲みながら、横目で様子を伺う。


「……はぁ、出ない訳にもいかねぇか」


 供助は溜め息を吐き出してから、観念した様子で画面をタップする。

 そして、スマフォを耳へと持っていった瞬間。


『こぉらぁぁぁぁぁぁぁぁ! 供助ぇぇぇぇぇぇ!!』

「いい゛っ!?」


 スピーカーから聞こえてきた怒鳴り声に、スマフォを耳から一度離す供助。

 あまりの音量に聞き耳を立てていた猫又も驚いた。


『ウチに連絡が来たぞ、こんのバカ孫が! 学校で問題を起こしたらしいな!?』

「じ、じいちゃん、声を抑えてくれって。それには理由があってよ……」

『いい、理由は言わんでも。担任からの電話で粗方の事は聞いた』


 スマフォから聞こえてくるのは、還暦を迎えた男性の声。電話の相手は供助の祖父であった。

 歳は六十を超えていても、その声には張りと元気があって年齢よりも若々しく聞こえる。


『事情も理由もワシはどうでもいい。ただ、一つ聞くぞ』 

「な、なんだよ?」

『お前は自分がした事を後悔してるか?』

 

 さっきまでの怒鳴り声は対照的に、静かながら重みのあるトーン。

 祖父は野太く圧のある声で、供助へ一つの問いを投げかけた。


「……そりゃ、俺がした事は正しい方法だったとは思ってねぇよ。けど、間違った事をしたとも思ってねぇ」

『そうか。ならいい』


 問いに対する供助の答えが納得のいくものだったのか。

 祖父が小さく笑う声が、スピーカーから聞こえてきた。


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