表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
263/457

      処分 ‐ソノゴ‐ 肆

「つーか、怪我してんだからウロウロ歩き回ってんじゃねぇよ」

「怪我しとるのは供助もではないか。しかも、朝より怪我が増えておらんか?」

「言ったろ、色々あったんだよ」


 猫又が供助の顔を見ると、朝には無かった真新しい包帯が頭に巻かれていた。

 適当に答えて流す供助であったが、それだけで猫又は何かあった事はなんとなく察する。

 詳しく話さずとも、新しく怪我が増えて、文化祭があるのに学校から帰宅。全てが分からずとも、なんとなく何かがあったんだと気付く。


「という事は、文化祭の出店はお預けか。楽しみにしてたんだがの」

「お預けも何も学校に来んじゃねぇよ」

「ドネルケバブ食べたかったのぅ、ドネルケバブ」

「だからなんだよ、そのドネルケバブって」


 ドネルケバブとは香辛料やヨーグルトなどで味を付けた肉を切り、それをパンなどで野菜と一緒に挟んで食べるトルコ料理である。

 なぜ猫又がこんなマイナーな料理を知っているかは謎。妖怪とは言え猫なのに雑食過ぎでなかろうか。


「昼飯どうすっかな。牛丼でも買って帰るか」

「牛丼っ!? 私はチーズ牛丼がいいの!」

「お前ぇには家に半額弁当があるだろうが」

「昼は文化祭の出店物を食べるつもりだったから、朝ご飯に二つペロンだの」

「はぁ!? おまっ……!」

「という訳でお腹ヘリコプターだの」


 昨夜食われて少なくなった分、自分のを削って譲ったというのに……まさかの一食に二つも食われるとは思ってもいなかった。

 猫又の食い意地の張りっぷりに、供助はあまりの呆れに頭を抱えて項垂れる。

 もう怒るのも面倒で、何か言い返すのがくだらなく感じてしまう。真面目に相手をするのがバカバカしい。


「あ、そういえば途中のコンビニでオニギリ百円セールやってたの」

「じゃ牛丼じゃなくてそっちにするか。家に近ぇし」

「オニギリなら私はあれ、あれがいいの! ソーセージが海苔で巻かれてるヤツ!」

「わかったわかった、買ってやるからもう喋んな。誰が見てるか分かんねぇんだからよ」

「やたっ! 久しぶりに食べれ……」

「じゃねぇだろ」

「にゃー」

「よし」


 供助はベンチから腰を浮かせて、大きく背を伸ばす。

 昨夜の傷が体中がまだ痛むが、我慢できない程でもないし、そこまで辛くもない。

 猫又もベンチから降り、供助の足元に付いていく。


「あ、あと半熟玉子のヤツも食べたいの」

「だから喋んなっての」

「にゃー」


 空はいい天気で、青と白が半々。風も無くて、九月下旬でもまだ秋の前。暑さが少し残る。

 今頃は学校の体育館で文化祭の開会式が始まっている頃。多くの生徒が学校行事の一大イベントに心躍らせ、楽しい二日間になるだろう。

 その枠から追い出された一人の少年。けれど、それは決して悲しむ事だけではない。確かに報われない扱いを受けはしたが、それでもそれ以上に得たものがあった。

 少年の事情を知り、常識を逸した異常へ理解を示し、それでも受け入れてくれた心からの友人。

 きっとこの先、友人の存在は大きな支えとなっていくだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ