処分 ‐ソノゴ‐ 肆
「つーか、怪我してんだからウロウロ歩き回ってんじゃねぇよ」
「怪我しとるのは供助もではないか。しかも、朝より怪我が増えておらんか?」
「言ったろ、色々あったんだよ」
猫又が供助の顔を見ると、朝には無かった真新しい包帯が頭に巻かれていた。
適当に答えて流す供助であったが、それだけで猫又は何かあった事はなんとなく察する。
詳しく話さずとも、新しく怪我が増えて、文化祭があるのに学校から帰宅。全てが分からずとも、なんとなく何かがあったんだと気付く。
「という事は、文化祭の出店はお預けか。楽しみにしてたんだがの」
「お預けも何も学校に来んじゃねぇよ」
「ドネルケバブ食べたかったのぅ、ドネルケバブ」
「だからなんだよ、そのドネルケバブって」
ドネルケバブとは香辛料やヨーグルトなどで味を付けた肉を切り、それをパンなどで野菜と一緒に挟んで食べるトルコ料理である。
なぜ猫又がこんなマイナーな料理を知っているかは謎。妖怪とは言え猫なのに雑食過ぎでなかろうか。
「昼飯どうすっかな。牛丼でも買って帰るか」
「牛丼っ!? 私はチーズ牛丼がいいの!」
「お前ぇには家に半額弁当があるだろうが」
「昼は文化祭の出店物を食べるつもりだったから、朝ご飯に二つペロンだの」
「はぁ!? おまっ……!」
「という訳でお腹ヘリコプターだの」
昨夜食われて少なくなった分、自分のを削って譲ったというのに……まさかの一食に二つも食われるとは思ってもいなかった。
猫又の食い意地の張りっぷりに、供助はあまりの呆れに頭を抱えて項垂れる。
もう怒るのも面倒で、何か言い返すのがくだらなく感じてしまう。真面目に相手をするのがバカバカしい。
「あ、そういえば途中のコンビニでオニギリ百円セールやってたの」
「じゃ牛丼じゃなくてそっちにするか。家に近ぇし」
「オニギリなら私はあれ、あれがいいの! ソーセージが海苔で巻かれてるヤツ!」
「わかったわかった、買ってやるからもう喋んな。誰が見てるか分かんねぇんだからよ」
「やたっ! 久しぶりに食べれ……」
「じゃねぇだろ」
「にゃー」
「よし」
供助はベンチから腰を浮かせて、大きく背を伸ばす。
昨夜の傷が体中がまだ痛むが、我慢できない程でもないし、そこまで辛くもない。
猫又もベンチから降り、供助の足元に付いていく。
「あ、あと半熟玉子のヤツも食べたいの」
「だから喋んなっての」
「にゃー」
空はいい天気で、青と白が半々。風も無くて、九月下旬でもまだ秋の前。暑さが少し残る。
今頃は学校の体育館で文化祭の開会式が始まっている頃。多くの生徒が学校行事の一大イベントに心躍らせ、楽しい二日間になるだろう。
その枠から追い出された一人の少年。けれど、それは決して悲しむ事だけではない。確かに報われない扱いを受けはしたが、それでもそれ以上に得たものがあった。
少年の事情を知り、常識を逸した異常へ理解を示し、それでも受け入れてくれた心からの友人。
きっとこの先、友人の存在は大きな支えとなっていくだろう。




