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      処分 ‐ソノゴ‐ 弐

「私、先生に停学を取り消してくれるようにもう一回頼んでくる!」

「ちょっと、和歌! もう少しで開会式が始まるよ!?」


 和歌は職員室へと向かおうと振り返り、利奈の言葉を振り切って走り出す。

 が、数歩のところで腕を掴まれて足を止めさせられた。


「やめとけ、委員長。どうせ行っても無駄だって」

「田辺君……」


 和歌の腕を掴んでを止めたのは、クラスメイトの太一だった。

 普段は明るくとっつきやすい性格の太一だが、今は表情が硬く、少し曇っているのが分かる。


「そうだ、りっちー。裁縫班が呼んでたぞ。なんか手伝って欲しいってさ」

「え、でも……」

「委員長の事は大丈夫。すぐ教室に連れて戻るからさ」

「……うん、わかった。先に戻ってるね」


 りっちーとは利奈のあだ名で、親しい友達はそう呼んでいる。

 和歌へ心配する眼差しを向けたあと、利奈は太一に任せて先に教室へと戻っていった。


「学校中、供助君の話題ばかり……なんにも知らないのに、知った風に好き勝手言って……」

「そういうもんだよ。知らないからこそ、ああやって面白そうに話せるんだ」

「私、やっぱり納得出来ない! もう一回職員室に行ってくる!」

「もう一回って……やっぱりさっきまで職員室に行ってたのか。どうせ何を言ったって、もう処分は変わらないって」

「あの時、供助君が助けてくれなかったら……あのままじゃ誰かが怪我をして、もしかしたら文化祭すら出来なかったかも知れないのに……」


 和歌は悔し涙で瞳を潤ませ、肩は悔しさで震わせる。


「なのに供助君だけが停学処分なんて、納得出来る訳ないじゃない……!」


 一週間の停学。それが供助に与えられた処分だった。理由は言うまでもなく、校内で暴力騒動を起こした為である。

 暴力を振るった理由はなんであれ、問題を起こして校則を破った以上、罰は必要だと。校長、教頭、学年主任と担任が話し合った結果、停学となった。

 体育館での被害は少なく、壊された物も修復できる範囲であった為、文化祭は予定通り行われるという放送が一時間前に流れた。

 しかし、それに貢献した供助だけが文化祭への参加が認められない。不巫怨口女(ふふおんこうじょ)に続いて、身を(てい)して不良達から守ってくれたというのに。

 こんな教師達が出した決定に、和歌と太一は納得する筈もない。


「そりゃ俺だってこの結果には納得してないよ。でも、頭の固い奴らは何を言っても考えを変えやしない」

「私達を守ってくれただけなのに……なんで供助君だけが罰を受けなきゃいけないの」

「あいつはこうなる事を分かって、自分だけで手を出したんだ。だから俺達には会いもせずに、知らない内に帰ってたんだろ。会えば俺達がうるさく騒ぐからってさ」


 太一と和歌が供助の処分を知ったのは、既に供助が学校から帰ったあと。

 騒動のあとに体育館で待機していた二人は、戻ってきた担任に話を聞いた時にはもう、供助は学校には居なかった。

 なぜ供助だけなのか。なんで罰を受けなきゃならないのか。二人は必死に教師達に説得したが、結果が覆る事は無かった。


「だったら俺達は、あいつが守ってくれた文化祭を成功させなきゃいけないだろ」


 和歌の腕から手を離して、太一は小さく肩を竦める。


「供助は文化祭が成功したかどうかなんて興味無いかもしんないけどさ、あいつがしてくれた事を……俺は無駄にはしたくない」

「……そっか、そうだね。そうだよね」

「委員長がどっか行ってクラスの皆が心配してたし、そろそろ教室に戻ろうぜ」

「んっし、委員長の私がいつまでもしょげてらんないもんねっ!」


 和歌は両手で頬を叩き、自分へ気合を入れる。

 パチン、と小気味のいい音が廊下に鳴り、さっきまでの気鬱さは顔から消えていた。 


「供助さ、あの化け物退治の仕事……高校に入ってすぐから始めてたんだってさ」

「そう、なんだ。そんな前から……」

「あいつはこうやって、ずっと人が知らない所で何かを助けてたりしたんだろうなぁ」

「……うん。すごいね、供助君は」

「あぁ、すげぇわ」


 廊下を歩きながら、二人は。

 同い年の人間で、同じ学生で、一人の友人が背負っているものを。生き方を。

 報われず、認められず、気付かれなくとも。良い部分も悪い部分も含めて、他人の目を気にしない生き方。

 それを当然のようにして、日常茶飯事だと表にも出さない。そんな彼を、心の底からの恭敬(きょうけい)を言葉にした。


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