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      礼参 -ゼンヤサイ- 漆

「残り二人。文化祭をブッ壊すんだろ? 早く来いよ」


 辺りに伸びた不良が倒れ、床には鼻血の赤い汚れ。さらには射殺すような眼付き。どちらが悪者か分かりゃしない。

 五人中、早くも三人が返り討ちにされた。予想外の状況に、残りの不良は完全に勢いを無くしていた。


「こいつ、かなり喧嘩慣れしてんぞ……!」

「いやいや、喧嘩(こっち)はからっきしの素人だんだけどな」


 喧嘩慣れはしていないが場馴れはしている。喧嘩ではなく幽霊や妖怪との戦闘が、だが。

 気圧されて立ち竦む不良に対し、頭を掻きながら独りごちる供助。

 しかし、昨夜の怪我で今は顔に大きな絆創膏やガーゼが貼られている。確かに、一見すれば喧嘩慣れしているように見えよう。


「まぁいいや。さっさとお帰り願いま……」


 残り二人。面倒事は早く済ませてしまおうと、供助が利き足を一歩前に出そうとした時。

 その足に違和感を感じ取った。動かそうとした足が動かせなかったのだ。


「んっだ……」

「今だ、やれっ!」


 どうしたのかと目線を下にやると。

 そこには供助の足をがっしりと掴む、リーダー格の男が居た。


「供助君、後ろ!」


 目を下に向けた矢先、死角にいた不良がフルスイングする鉄バット。

 和歌の叫びも間に合わず。供助の頭部を強打し、斜めになった体はそのまま倒れ――――。


「……ってェな」


 ――――ない。


「はっ、アイツの細腕に比べりゃまだ可愛いか」


 あいつ、と言ったところで頭に浮かぶは不巫怨口女。

 あんな化け物の腕、それも数十本。あれと比べればこの程度、倒れるまでもない非力さだった。


「っらぁ!」

「ぶげっ!?」


 全力で、それもバットで殴ったというのに倒れなかった供助を目の前にして。不良が化物でも見たかのように固まっていた所へ、供助はお返しのテレフォンパンチ。

 足が竦んでいた不良は見事に吹っ飛び、持っていたバットを床に転がす。ワンパンチでのノックアウト。これがボクシングのイベントだったら歓声とブーイングの嵐だろう。

 しかし、今あるのは生徒の悲鳴のみ。その理由は血を流している供助への心配なのか、それとも暴力を振るって暴れる奴等に対してなのかは分からない。

 おまけに足を掴んでいた邪魔なリーダー格も爪先キックを顔面にお見舞いし、声もなくその場で気絶した。


「ちっ、せっかく昨日の怪我の血が止まってたってぇのによ」

「ひ、っひ……」


 渾身の一撃を喰らって倒れなかったとは言え、供助も人間。バットで殴られれば怪我はする。

 昨夜の不巫怨口女との戦闘で負った怪我が再び開いてしまい、塞ぎかかっていた頭の傷口から額から顎へと血が滴っていた。

 普通ならば手負いで格好のチャンスなのだが、足元もしっかりして平然と立っている供助は、相手をする残り一人の不良からしては恐怖でしかない。

 あまりの規格外を見せられて不良は尻餅を突き、腰を抜かして完全に戦意を失っていた。


「こらぁぁぁ! お前等、なにやってんだぁ!?」


 残り一人の所で、体育館の異変に気づいた生徒に呼ばれてきた教師が数人やってきた。

 体育館内は荒らされて、しかも人が血を流して倒れているという異常事態。体格のいい体育教師は威嚇と威圧を含めた怒声をあげる。

 当然、その声を向けたのは事件の中心に居た人物へ。言うまでもなく、その相手は供助。

 そんな遅れてやってきて威勢だけがいい教師に対して、供助は。


「なんに見えます?」


 悪気も、反省も、弁明も無く。近付いてくる教師達に向けるは、さっき太一に見せたあの表情。

 自嘲を含めた笑みを、供助はまた、わざとらしく作るのだった。


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