礼参 -ゼンヤサイ- 伍
唯一、驚きも戸惑いもしなかったのは供助だけ。いきなり姿を現すだけでなく、攻撃までしてくる幽霊や妖怪と戦うのが日常茶飯事。
たかだかいきなり大きな音がした程度では、驚くような事じゃ無かった。
「オイオイオイなんだよ、今日は文化祭だってぇのを聞いて来てやったってのに……まぁだ準備中じゃねぇか!」
鼻にピアスをした茶髪を先頭に、ぞろぞろとガラの悪い奴等が入ってくる。
「あん? なんだ、あいつ等」
「学校で見た事ない顔だな。制服も着てないとこを見ると……他校の生徒か?」
数は全部で五人。全員が髪を染めていて、顔のどこかしらにピアスを空けている。
制服じゃなければ金髪で耳にピアスをしている太一が混ざっても違和感がなさそうだ。
「おぉ? 綺麗な衣装を着てお遊戯会かぁ?」
周りの反応など関係無い。最初に扉を蹴り開けて入ってきたリーダーと思わしき人物を中心に、舞台の方へと近づいて行く。
ニヤニヤと笑みを浮かばせ、または音を立ててガムを噛んでたり。その程度ならばよくある空気の読めない不良で済むのだが、それだけでは済まない理由があった。
生徒達が怯えている大きな理由は一つ。不良達が全員、その手に何かしらの凶器を持っていた。
「バットにチェーン、あとバールのようなもの……そんなもん持ってきて何する気だ、あいつ等」
「漫画でよく見る凶気が出揃ってらぁ。さすがに丸太はねぇか」
「どうする? なんかヤバそうな空気だけど」
「下手に手ぇだしたら逆に面倒臭そうだ。こんだけ騒いでりゃそのうち先公が来んだろ」
供助はいつもと変わらない態度で太一の答え、鼻を鳴らして不良達を一瞥した。
「せっかく文化祭をブッ壊してやろうと思ったのによぉ、これじゃ興醒めじゃん」
そこいらに置いてあった椅子や机、他のクラスや部活が使う為に置いてあった道具を蹴り飛ばす不良達。
せっかく作ったであろう小道具や用意した機材が床に倒されていく。
「でも供助、放っておくのはさすがに無理だろ。こうも物を壊されちゃ堪ったもんじゃない。それに……」
「なんだよ?」
供助が太一へと目をやり、続きの言葉が気になっていると。
「ちょっと、なにするのよ!」
体育館に響く、女性の声。体育館に居た生徒達の視線がその人へと注目される。
供助と太一も同じく反応して、目に映ったのは眼鏡を掛けた茶色い大きなポニーテールの女子生徒。
「委員長の性格上、何もせず黙ってる訳が無い」
「あんの馬鹿……」
和歌が怒鳴るのを見て、供助は思わず手を額に当てて項垂れてしまう。
「なんなんですか、あなた達は!?」
「俺達ゃたかだか煙草吸っただけで石燕高校を辞めさせられてよぉ? だから、そのお礼参りに来てやったんだよ」
言って、リーダー格の不良は足元にあったダンボール箱を思い切り蹴飛ばした。
中に入っていたハサミやガムテープは外に放り出され、床に多くの道具が散らばされる。
「んん? お前、どっかで見た気がすんなぁ?」
「ちょ、やめて……離して!」
和歌の腕を掴んで顔を突き出し、舐め回すように和歌の体と顔を見る。
「……思い出した。お前、前に夜の駅前にいた女か!」
「えっ? あ、あなた、あの時の!」
よく見ると和歌にも見覚えがあった。下品に笑う度に見え隠れする、舌に開けられたピアス。
それは数日前。演劇の話し合いで帰りが遅くなった時、駅前で絡んできた不良二人の一人だった。




