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      礼参 -ゼンヤサイ- 肆





     ◇     ◇     ◇





 なんとか練習開始前に照明を持ってきた供助は、体育館の床に座りながら壁に寄り掛かって演劇の練習を眺めていた。隣には太一が居て、供助と同様に練習風景を眺めている。

 今はクラスメイトの半分が体育館に集まって、文化祭の出し物である演劇の通しと最終確認をしていた。

 壇上には太一達の小道具班が作った演劇のセットの一部。それと衣装を着た出演者が意気込んで演技をしてる。その中には急遽、ロミオ役をする事になった委員長もあった。

 壇上で順調に進んでいく演劇だが、背景は少し殺風景。本当ならもっと大きな背景用のハリボテがあるのだが、今日使って片付けてまた明日使うのが大変だという事で使っていない。なので、今は必要最低限の物だけで最後の練習をしている。

 昼休みが終わったら、この体育館で午後一から開会式。それ以降は練習に舞台を使えない。なので、これが最後の通し練習の為、全員が気合を入れていた。


「今からやってんのは通しと最終確認だろ? なんでわざわざ衣装に着替えてんだ?」

「各々が試着してサイズ確認はしたけど、衣装を着た状態で演劇をした事はなかったからな。動いて破れたりしないかも確認してるんだよ」

「本番が明日だってのに、今からやる通しで破れて直せんのかよ」

「一部が破れたり穴が空いたり、切れた程度ならすぐ直せる。ウチの衣装班の裁縫レベルは結構高いんだぞ」

「ふーん……てかよ、つまりは演劇に出ねぇ俺等は見てるだけって事じゃねぇか。居る必要ねぇなら帰りてぇんだけど」

「そう言わずに見とけって。練習で小道具が壊れたら俺達の出番なんだからさ」

「そんなのお前一人で直せるだろ」


 不貞腐れるように胡座をかいた足に頬杖を突き、暇そうにする供助。やる事もなく、興味が無い物を見せられていてはそうもなろう。

 早速、運んできた照明も活躍しているようで、和歌が演じるロミオが舞台に立てばスポットライトが当てられていた。


「もしも私の心のこの愛の気持ちが……」

「でも、やっぱりお誓いにならないでください。私はあなたがとても好きですけれど……」


 壇上では主役であるロミオを演じる和歌が声を大きく張り、最後の練習は滞りなく進んでいく。

 このまま衣装や小道具に問題が無ければ、明日の本番は成功するだろう。


「そういえば打ち上げの件は考えてくれたか? 文化祭の閉会式が終わったあと、駅前の定食屋でやるんだってよ」

「定食屋ぁ? なんでまたそんな所でやんだよ」

「クラスメイトの親がやってる店で、貸切にしてくれるんだってさ」

「と言ってもなぁ……俺なんかが行っても気まずくなるだけだろ。文化祭準備をろくに手伝ってねぇのによ」

「こうして何事もなく文化祭に臨めるのはお前のお陰なんだ。参加する資格なら十分にあるって」

「はっ、昨夜の事なんざ誰も覚えていねぇのに、俺のお陰もクソもねぇだろ」

「俺等が覚えてる。それだけじゃダメか?」

「……ったく、なんだかなぁ」

「それに多分、お前が嫌がっても委員長が無理矢理にでも連れて行くと思うぜ」


 太一が言うように、供助の頭には和歌がしつこく付きまとって誘ってくる絵が浮かんだ。

 昨夜の一件を知っているからこそ、参加すべきだと強く言ってくるのも簡単に想像できる。


「わあったよ。俺も行けばいいんだろ」

「参加費は一人五百円な」

「金取んのかよ!?」

「当たり前だろ。でも、料理を沢山用意するって言ってたから、夕飯代だと思えば安いだろ?」

「五百円ありゃ半額弁当を二食分買えんだけどな」

「あぁ、悪かった。そもそもの俺とお前の基準が違ってたわ」


 打ち上げを誘ってくる和歌の相手を長時間するのは面倒臭いと、供助は半ば諦める形で参加の意を表した。

 それでもまぁ、参加費は五百円と安い。これくらいの金額ならば財布に響くこともない。

 ただ、猫又の分はどうするかが問題であった。これで何も持って帰らなかったら、家で喚き散らして不貞腐れるだろう。


「余ったモンを持ち帰りすりゃ、まぁ大丈夫か」

「なんか言ったか?」

「いや、なんでもねぇ。こっちの話……」


 ――――バァン!

 突如として体育館に響く、大きな音。供助の言葉も途中で遮られてしまう。

 その音に驚き、戸惑う、体育館に居た多くの生徒達。演劇をしていた和歌も当然その一人で、音によって演劇は中断された。


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