礼参 -ゼンヤサイ- 弐
「よし、じゃあ丁度良い。供助、手が空いてるんだから委員長の所に行って手伝ってこい」
「はぁ? なんで俺なんだよ。手が空いてんのはお前もだろ。面倒臭ぇ、お前が行ってこいっての」
「俺は俺で運んできた道具が全部あるか確認したり、破損や不備がないかのチェックする仕事があんの。お前じゃ道具全部を把握してないだろ?」
「……わったよ、行きゃあいいんだろ。行きゃあよ」
大きな溜め息のあとに頭を掻いて、供助は渋々といった態度で体育館から出て行く。
和歌が居ると言う第二校舎裏の倉庫は外。面倒な事に外靴に履き替えなければいけない。
体育館から下駄箱は近く、すぐに着いて靴を履き替えて外に出る。教室も廊下も体育館も、もちろん外も。やいのやいのと生徒達が賑やかに文化祭準備をしている。
昇降口前の広場や中庭など、大きく開けた場所では出店の準備が進められていた。パイプでの骨組みや、看板の設置など。一番ここが活気があるように見える。
ちなみに。昨夜、供助と猫又が死闘を繰り広げた校舎裏の砂利場は駐車場となっている。
あと不巫怨口女が激突してひしゃげて破損したフェンスを教師が見付け、誰が壊したのかと少しだけ問題になったという小話があったり無かったり。
「随分と静かなもんだな、こっちは」
賑やかで騒がしい中を抜けて、第二校舎の裏に来ると一気に人気が無くなる。
ここは学校の敷地内でも端の方で、文化祭でも使われる場所じゃないのが理由だろう。
「倉庫ってのはあそこか」
ぽつんとある、小さいプレハブの小屋。少しボロさがある倉庫。
倉庫の引き戸が開いたままなのを見ると、恐らく和歌は中でまだ照明器具を探しているんだろう。
供助は背中を丸めて歩き、のそのそと倉庫に向かって行く。
「おーい、和歌。いるかぁ」
「ひゃいっ!?」
供助が倉庫の入口から顔だけを覗かせると、中から裏返った声が返ってきた。
「え、あっ……供助君? びっくりしたぁ」
「なんでそんなに驚くんだよ」
「だって、ここ薄暗いし、誰かが来るとは思ってなくて……」
和歌は両手を胸元にやって体を縮こませ、声の正体が供助だと分かるとホッと胸を撫で下ろした。
「探してんのは見つかったか?」
「うん。色々な物に埋まってて手間取ったけど、ついさっき取り出したところ」
「じゃあ和歌は外に出てろ。俺が出して持ってく」
「手伝ってくれるの?」
「太一に言われたんだよ。重いから手伝ってやれってよ」
和歌と入れ替わりで倉庫に入り、供助は少し埃を被っている照明を見付ける。
持っていくのは古い型の照明で、最近のとは違って大きさが目立つ。重さは優に五キロは超えるだろう。
それを供助は手こずる様子もなく、ひょいっと簡単に持ち上げた。
「悪ぃけど、手ぇふさがってるから扉閉めてくれ」
「あ、うん」
供助が倉庫から出て、和歌は扉を閉めたあとに鍵も掛ける。
最近は学校施設での盗難事件も珍しくない。この学校では保管場所などは鍵掛けを義務付けられている。
「供助君、一人で大丈夫? 私も一緒に持った方が……」
「一人で大丈夫だ。この方が早く運べるしな」
先に歩いていた供助を駆け足で追って、和歌は隣に並ぶ。
「怪我、大丈夫? 痛くない?」
「まぁ朝は傷の痛みで目ェ覚めたけど、余程の無理をしなきゃどうって事ねぇよ」
「な、なら私がそれ持つから! 供助君は怪我人なんだから無理しなくっていいって!」
「だぁから、大丈夫だっての。こんくらい無理でもなんでもねぇって」
照明を持とうと接近する和歌に、供助は足を止めて腕で遮る。
手伝いに行って手伝われてるのを見られたら、太一に何を言われるか。




