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     呼名 後 ‐ヨビカタ コウ‐ 弐

「しかし、昔は仲が良かった、というのが気になるの。お互いの呼び方も苗字とあだ名になっておるし」

「俺が一時期今の家から離れて別の所に住んでたからな。それで疎遠になったんだ」

「ん? 供助はずっとあの家に住んでおったのではないのか?」

「小六の時に両親が死んじまったからな。さすがにガキが一人で住む訳にもいかねぇから、母方の祖父母の家に引き取られた」

「……なるほど、の」


 猫又は横目で和歌を見て、さっきから気まずそうにしていた理由を見付けた。

 幼馴染であれば、供助の境遇も当然知っている。そして、二人が疎遠になった理由が供助の両親の死となれば、気まずくもなるだろう。


「小学校は委員長と同じだったが……あぁ、太一もな。中学からは別々になって、祥太郎とはその中学からの付き合いだ。そんで、高校に通う為に俺がこっちに戻ってきた」

「そうであったのか。つまり、三年ほど疎遠になっておったのか」

「で、高校で同じクラスになって再会したが……そのままなぁなぁになって、今じゃ遊ぶほど仲良くはねぇな」


 昔は仲が良かっただけに、和歌本人の前で今はあまり仲良くないと口にするのは躊躇うものがある。

 供助でもさすがに少しばかりバツが悪そうにして、数メートル先の街灯へと視線を流した。


「全く、せっかく隣同士な上に幼馴染だと言うのだから仲良くすればいいものを。供助、そういうところだぞ」

「んだよ、そういうところって」

「昔からの知り合いで、今回の件で供助の事情を知った少ない友人ではないか。ちゃんと受け止めて理解してくれる者は多くない。特に、払い屋という特殊な生業だとの」

「……」


 猫又の言っている事は正しい。世間に話せず、理解されず、評価もされない。影に生きて、影に動き、影を討つ。稀有な職業。

 だからこそ、供助からの返事が無い。言い返す言葉が無いから。


「あんな危なく怖い思いをしても尚、自身よりも供助の事を想って心配してくれる。そういう優しい心を持つ友人は大切にせねばならん。のう、和歌?」

「は、はい! なん、でしょう?」

「私は供助の相棒として組んでまだそう長くないが、それでも此奴(こやつ)の天邪鬼っぷりは知っておる」

「あ、はは。そうですね、学校でよく手を焼いてます」

「そして、それが人を遠ざけてるように見えて、妙に危なっかしく思ってしまう事もの」

「それ、は……」


 猫又の言葉に、和歌にも思い当たる節があった。

 それはわざと人と深く関わりを持たないようにしているように思えて。そのまま誰とも関わりを持たなくなり、いつか知らない内にどこかへ消えていってしまうんじゃないか。

 そんな心配と不安が、時折り胸を駆ける。


「おい、猫又。要らねぇ事を言ってんじゃねぇぞ」

「なら問題無いの。私にとっては要らぬ事ではなく、“必要な事”だと思っておるからの」


 供助が猫又へガンを飛ばすも、頭の上に乗っている猫又には見えなく。

 軽く受け流して話を止めない。


「和歌や太一、祥太郎が待っておる限り、供助が何処かへ行ってしまう事は有り得ん。だから、この危なっかしい馬鹿と……繋がりを持ってやって欲しい」

「……はい。私も色々と思うところがありますから。今度はちゃんと、この繋がりを手放さないようにします」


 何があって、何を考え、何を思い返しているのか。それは和歌にしか分からない。

 小さく口端を上げて笑ってはいるも、その表情はなぜか憂いを漂わせていた。

 仲が良かった幼馴染との復縁が嬉しくない訳では無い。しかし、それ以上に思い出した過去の記憶が悲しいものだった。


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