処置 -キオク- 肆
『とりあえず供助君と猫又ちゃんはゆっくり休んでちょうだいな。体の傷が充分癒えるまで、数日は依頼を入れないからさ』
「俺は明日から依頼が来ても大丈夫ですけどね。まぁ、猫又の方は回復すんのにどんだけ掛かるか分かんないですけど」
『猫又ちゃんの問題は傷よりも妖気の問題だからね。最近は頻繁に仕事させてたし、いい機会だからのんびり休んでよ。一応、供助君だって怪我人なんだから』
「わかりました。横田さんの言う通りに大人しく休んどきます」
『他にも話したい事はあるけれど、こっちはたんまりとやる事があるからね。とりあえず一旦切るよ。ひと段落したらまた電話するわ』
「あ、切る前にちょっといいすか?」
『なーに?』
一瞬。ほんの一瞬だけ、戸惑うように息を飲み込んで。
供助は視線を僅かに落としてから、言葉を繋げた。
「太一達……俺の友人達はどう、なりますかね……?」
『供助君の友人達からは話を聞き終わって、最後にもう一回体に異変が無いか調べてから解放すると言っていた。早ければもうそろそろだろう』
「聞き取りが始まってそれなりに時間が掛かってるって事ぁ、今回の件の記憶は……」
『その判断は現場に任せてある。会ってみれば分かるよ』
「そう、っすか」
『最後に、老婆心ってほど歳は取ってないけど……ま、君の理解者は多い方がいいと思うよ。んじゃね』
プツッ、と。短い電子音が聞こえたのが最後に、横田との通話が切れた。
「ローバシン? ってなんだ?」
「……相変わらず馬鹿だのぅ」
供助はホーム画面に戻ったスマホを眺め、聞き慣れない言葉に頭を斜めにする。
それを隣で見ていた猫又は耳を下げ、呆れから溜め息を吐き出した。
「む?」
猫又は下げていた耳を立て、前足に乗せていた顎を上げる。
「どうした?」
「なに、足音がな」
「足音?」
「忙しない足音がこっちに向かってきておる。どうやらあっちも終わったらしいの」
猫又が体を起こし、目を向ける先は後ろの昇降口。
供助も同じく開きっ放しにされた昇降口へと向き、電気の消えた暗い校内から聞こえて近付いてくる足音があった。




